ビジネス

2023.11.08

ゼロゼロ融資と真の中小企業支援

大企業は押しなべて中小企業から出発した。名だたるグローバル企業も、そのスタートは町工場や零細企業だった。例えば技術者と証券会社OB、それに医師が立ち上げた細やかな研究所が、今日のキヤノンの原点である。ベンチャーやスタートアップは、要は中小企業だ。これらの資金調達については、すぐにエクイティ・ファイナンスが取りざたされるが、現実には融資などのデット・ファイナンスが極めて重要である。

この点、話題になっているのが、ゼロゼロ融資の返済開始と倒産件数の増加である。ゼロゼロはコロナ禍の初期に、中小企業の資金繰りを支援するために無利子、無担保でまずは政府系金融機関が、ついで民間金融機関が融資した制度である。名目上の貸し手は民間金融機関でも、信用保証協会が100%保証し、最終的には日本政策金融公庫がリスクを取るため、実質的には国が貸したようなものだ。

中小企業庁によると融資実績は官民合わせて249万件、43兆円に上った。その過半を占める民間ゼロゼロの返済のピークが今年7月から始まった。途端に倒産件数が増えた。帝国データバンクによると、この8月は昨年同月比5割増の742件である。

だが、この数字を見て、巨額のゼロゼロ融資は失敗だったと断ずるのは早計だ。コロナ前の倒産件数はおおむね月当たり700件強であったし、リーマン危機後の09年6月は約1300件、その後数年間も1000件を超えていた。しかもコロナ融資を受けた事業者の倒産件数は、8月で62件と全体の1割にも満たない。つまり、ゼロゼロ融資は多くの真面目な中小企業を救済しており、一部で批判されるように「ゾンビ企業」を延命したとは言えない。

むしろ、深刻なのはこれからだ。世界的な経済不安定化の下、大幅な円安、原料高、人手不足、賃上げ圧力等々に立ち向かわなければならない。物流を直撃する24年問題も深刻である。政府は経営者の個人保証を求めない信用保証制度やコロナ借換保証の継続などを決めている。ただし、難問山積の中小企業には、金融面にとどまらない多面的なサポートが必要だ。

こうした支援の中心になるべきは、本来、民間金融機関だと思う。「雨の日に傘を貸す」融資態度にとどまらず、総合的な伴走が不可欠である。興味深いのが商工組合中央金庫の動向だ。

同庫は民営化が決定している。その前提条件は、民間金融機関と手を携えながら、全国の中小企業の真のニーズに応える多面的なサポートを行うことである。それゆえ、近い将来の民間の中小企業金融のあるべき姿を示さなけらばならない。

ファイナンス面では、為替損失や事業承継への不安、メインバンクからの一括返済要求への対応、実質債務超過等々に対して、多様なスキームを提示しながら問題解決を促進している。
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文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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