20年前を思い出す。ITバブル崩壊後、多くの中小企業が資金繰りに窮していたころだ。九州の建設関係の中小企業社長が深刻な面持ちで、はるばる相談に来た。自宅や伝来の美術工芸品まで担保に入れたが、地銀からも信金からも見放されそうだ、二期連続の赤字必至ながら、長年の取引先が数多くあり、あと半年をしのげば目鼻がつくのに、と身を震わせていた。私は「ダメ元で国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)に相談したら」というのが精いっぱいだった。
国民公庫は素早かった。支店長自ら面談に参加し、短期の融資を即決した。この企業はコロナ禍でも業績を伸ばし、今では年商20億円、長男を後継者に据えて隆々たるものである。同社長は願う。「いざとなったら、公的金融以上に民間金融に頑張っていただきたい」
商工中金民営化後の株主は、中小企業関係者に限られる。そういう意味でも、同庫の事業が民間の中小企業金融のモデルになるように期待している。
川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。