実家近くの歩道橋で「これかも」
——郷祥さんの作品に共通するテーマ「相反する二面性の共存」は、どのようなきっかけで生まれたのですか。現代アート作品をつくり始めたとき、自分の半生を振り返り掘り起こす時間がありました。その過程で、自分が小学校低学年の時の記憶を思い出しました。ある日、実家近くの歩道橋を渡っているとき、ふと真ん中あたりで立ち止まり「これかも」とひっかかるものを感じたのです。その時は言語化できませんでしたが、あの時の感覚は何だったのか改めて考えました。
歩道橋で立ち止まっている自分は「静」だが、歩道橋の下には絶え間なく車が走っている「動」がある。さらに、今この瞬間の自分は生きているけれど、この高い歩道橋から落ちたら死んでしまう。つまり、「静と動」、「生と死」という両極のものが歩道橋の真ん中にはある状況だった——。
思えば、自分が手掛けてきた書道や現代アートの作品も、「白と黒」「直線と曲線」「描くと削る」「東洋の墨と西洋のアルコールインク」という両極のもので構成されていました。両極のものが合わさった時に化学反応が起こり、新しいものが生まるのだと、気付きました。「相反する二面性の共存」こそ、自分の美意識を反映する言葉だと考え、テーマにしています。
——東京では今年4月に続き2度目となる個展を開催します。(11月6日〜12日、銀座アポロ昭和館)。今回はどのような作品を展示しますか。
文字、蝋墨書、現代アートの最新作と、これまでの活動を網羅した回顧展のような形になります。
最近、アーシング(身体と大地がつながること)が話題になっていて、調べているとすべての生き物(有機物)は波形で表すことができると知りました。今回の個展では、それをシリーズ化した作品も展示する予定です。例えば、「墨」の波形を表した作品などがあります。
「Waveform」(727mm×1167mm)
書を、日本を守る「芸術」に
——郷祥さんが実現したい夢は。「書道をより身近に、より芸術的に、より国際的に」を目指しています。
「書は文化なのか、芸術なのか」というのは、これまでにも時代によって解釈が異なってきました。そもそも明治維新以前、書は芸術として認識されていたんです。でも文明開化で西洋化する過程で、「書は文字であり情報伝達の手段にすぎない」と判断され、芸術から外されました。そしてその後、1948年の日展(日本最大の総合美術展覧会)に書が組み込まれ、形式上は芸術になりました。