アート

2023.11.06 12:15

書は日本を守る「芸術」だ。郷祥が挑む、書と現代アートの世界


ただ、師範免許を取得すると同時に行き詰まりを感じました。というのは、従来の書道は古典を基礎としているため、日本人でも読める人は少ないんです。書道をやっている人にしか書の魅力が伝わらないのはすごくもったいない。

文字の余白や筆跡、崩し方、さらに紙や墨についての知識があれば、書を深く味わえるようになります。そういう書の魅力を伝えたい、誰が見ても驚きと感動をもって受け入れてもらえる作品をつくりたい。そういう思いがあって一般的な書道から離れ、試行錯誤が始まりました。

——そこで蝋墨書に取り組まれたのですね。

はい。書を立体化させたいと思い、蝋墨書の技法を編み出した名古屋の書道家に弟子入りしました。蝋墨書では、最初に溶かした蝋で紙に描き、その蝋を削り、墨を刷り込み、さらに熱を加えて蝋を抜き取ります。すると立体的な表現になって2次元の書が3次元に見えてくるんです。

さらに、オリジナリティを追求して脱“白黒”をしようと、西洋発祥のアルコールインクアートを組み合わせたカラフルな作品づくりもはじめました。このころから海外の公募展に参加していて、2015年にスペインの国際展で国際的な芸術家の証しである「A.M.S.Cスペイン本部芸術家会員」に推挙されました。
 

ただ、文字を書いているのでは、作品を見た時にどうしても文字の意味に引っ張られてしまい作品本来の良さが伝わらないというモヤモヤも抱えていました。文字が持つ感情や表情を表現したい、とたどり着いたのが「墨流し」という技法です。墨が紙に染み込む過程で墨の成分である煤が水分の中を浮遊し、墨が自らの意思で模様を形成するという墨跡画の技法です。つまり、モチーフは自分が決めるけれど、模様は自然が織りなす。墨跡画は、そういった面白さがあります。

これを機に、2021年から墨跡画家としても活動するようになりました。思い通りの模様を出すために、3年かけてオリジナル配合の墨も開発しました。紙にもこだわり、自分がつくった墨に合う紙をつくってもらっています。

FLAME(各1050mm×580mm)
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文=久野照美 取材・編集=田中友梨 撮影=小田光二 作品画像=郷祥さん提供

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