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2023.11.05 10:00

「方向感覚を失う」ほど深く大規模なガザのトンネル網、イスラエル軍の作戦は

安井克至

Getty Images

イスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザ地区の地下に築いたトンネル網にイスラエル軍が潜入するとき、兵士らは別の現実に足を踏み入れることになる。

暗闇。恐怖を感じるほど狭い空間。空気がなくなる、あるいは一酸化炭素のような有毒ガスを吸うという目に見えない危険。

イスラエル軍の特殊訓練を受けた地下戦闘部隊は、呼吸マスクや赤外線ゴーグルといった装備を装着するため、感覚遮断はさらに高まる。

「地下での戦闘は宇宙空間での戦闘のようだ」と、米陸軍特殊部隊の元曹長で地下戦の専門家ホセ・ゴードンは話す。

閉鎖された場所では、爆風の圧力が増幅される。標準装備の弾丸ですら、発射で鼓膜が破れたり鼻血が出たりする。そのため、兵士らは防護用の無線ヘッドセットをつけ、発射音や閃光を抑えるサプレッサー装置と重く遅い弾丸を装備したライフルを携行している。この弾丸は壁に当たって跳ね返ってくるリスクを低減する。

基本的な状況を把握できなくなると、地上戦では冷静なベテランでさえ何もできなくなる可能性がある。「時間の感覚がなくなる。方向感覚を失うこともある。本当にパニックになる」と米陸軍士官学校ウェストポイントの現代戦争研究所で市街戦を専門とするジョン・スペンサーは話す。

イスラエル政府は、イスラエル人ら1400人を殺害した10月7日のハマスによる奇襲を受け、ハマスの軍事能力を破壊し、ハマスによるガザ地区支配を終わらせると宣言した。ハマスは200人以上を人質にとった。

ガザの保健当局によると、10月7日以降、およそ8800人のパレスチナ人が死亡。大半がイスラエル国防軍(IDF)の激しい空爆の犠牲になったという。IDFは10月27日から地上部隊をガザ北部へとゆっくりと移動させている。

目的を達成するため、IDFは地中貫通爆弾の威力がおよばない深さ約70mにもおよぶガザの地下でハマスに挑むことになる。ハマスは、通常戦闘におけるIDFの圧倒的な優位性をなくすために、何十年もかけて地下施設を築いてきた。

地下戦は、2014年のガザ侵攻以来、IDFが真剣に準備してきた任務だ。当時、ハマスはIDFの部隊を待ち伏せするために境界をまたぐトンネルを使い、潜伏やIDFの地上部隊への攻撃作戦のためにガザ内部の通路を使った。報じられたところによると、その後IDFは特殊な装備とテクノロジーを用いる、地下戦とトンネル解体を専門とするサムール(イタチの意)と呼ばれる特殊部隊の規模を3倍に拡大した。

米議会調査局の報告書によると、2016年以降、米議会は地下トンネルの探知や地図作成、無力化に関する米・イスラエル防衛協力に3億2000万ドル(約48億円)の予算を承認した。
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翻訳=溝口慈子

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