エンタメ産業のAIの脅威
エンタメ産業にもさまざまな影響をもたらしている。象徴的な出来事として2023年5月、ハリウッドの脚本家組合は制作配給企業に対し、ガイドラインを設けず原作者の権利を無視したAI導入に自粛を求めるよう、ストライキを起こした。さらに俳優協会も、制作会社が肖像権の許諾無しに俳優の表情や体の動きを取り込み、ディープフェイク映像に利用することを危惧し、脚本家組合のストに参加。この出来事によってAIがエンタメにもたらす脅威が、広く認識されるようになった。もちろん導入のメリットもある。ディープフェイク技術は近年リリースされたハリウッド映画でも使用されており、ロバート・デニーロやハリソン・フォードが過去に出演した映像を基に、若いころの彼らの姿が再現されている。本人の許諾が取れていれば何ら問題はない。
問題となるのは、対象の俳優が死去している場合だ。AIによって肖像権が無断で濫用される可能性があるが、基本的に肖像権は本人の死亡とともに消滅する。そのため、著者が死亡した後も作品の著作権が保護されるのと同じように、死後の肖像権も擁護されるべきだとの考えが広がっている。
2030年には50%がAIを用いた楽曲に?!
では、音楽産業におけるAIの導入はどこまで広がっているのだろうか。ワーナー・ミュージック・アジア統括本社のジョナサン・サービン社長によると、2023年1月から10月の期間でAIによって生成された楽曲は世界で1億曲以上。われわれが聴く音楽の30%は何らかの形でAIが作成に関与したものであるという。また、主要レコード会社も26年にはAIで生成した楽曲の市場規模は70億米ドルに達し、30年には全ての楽曲のうち50%はAIが関与した作品になると想定していることから、すでにパンドラの箱は開けられてしまったと言えよう。
楽曲制作でのAIの導入に関しては、アーティストがAIを受け入れるか否か、レコード会社が取り込みに興味を示すか、そしてAIが作った楽曲を著作権保護法がどのように扱うかの3つの要点がクリアになる必要がある。