そんなとき、相手との関わりを重要視したり、他者まで含めて、持続的に「わたしたち」のウェルビーイングを考えることで、その一見相反することをうまく扱うことができるのではないか。
こう考えたのが、身体性とつながりという視点からウェルビーイング実現の方法論を探求するNTTの上席特別研究員 渡邊淳司と、早稲田大学文学学術院 教授のドミニク・チェンだ。二人は9月、『ウェルビーイングのつくりかた』(ビー・エヌ・エヌ)を上梓。“わたしたちのウェルビーイング”を社会に実装していくべく、新しいフレームワークを提唱している。
二人が強調するのは、目の前の人とお互いに助け合ったり、誰かの助けになる行動をとること自体が、ひいては、自身のウェルビーイングの実現にもつながるという点だ。また、ここでいう「わたしたち」には、2つの広がり方があるという。
「一つ目は、ウェルビーイングの選択肢を、自分(I)だけでなく、近しい人(WE)、不特定多数を含む社会(SOCIETY)、さらには自然などより大きな存在(UNIVERSE)へと広げること。二つ目は、ウェルビーイングの「関係者」を、他者や社会、自然を含めた全体へ広げ、そこまで含めて自分ごととしながら、個人と全体の両方のよいあり方を実現していくというものです。
例えば、ある人が、近しい人との関わり(WE)のなかにもウェルビーイングを見出すようになれば、自分のことだけでなく、仲間に親愛の感情を持ったり信頼することからも、その人のウェルビーイングが実現されることになります。ウェルビーイングの選択肢が増えるのです」と渡邊。
このようなウェルビーイングの具体的な方法論を社会に示そうと、渡邊とチェンが一年以上対話を重ねていく中で、生み出したのが「ゆ理論」である。
「ゆ理論」とは何か
渡邊とチェンは、個人だけではなく、異なる人同士のウェルビーイングについて一緒に考えて、本(『わたしたちのウェルビーイングとつくりあうために』2020年、ビー・エヌ・エヌ)を作ったり、ハッカソンやワークショップを開催してきた。その中で、読者や参加者から「どのようにウェルビーイングを活用するのか分からない」という声がよく聞かれたのだという。「そこで、デザインやものづくりの現場でガイドラインとして使える概念を作ろうということで生まれたのが、『ゆらぎ・ゆだね・ゆとり』という3つの言葉を使った『ゆ理論』です。自律性とか内在価値といった硬い用語ではなく、日常生活でも使えて、かつ余白のある言葉を意識しました」とチェン。