2. 短期的な「正の強化」の先にある長期的な副作用が認識しづらい
「正の強化」の概念は、ある行動が好ましい結果を生む際、その行動は繰り返されることが多いことを示している。筋肉増強剤の使用は、急激な効果をもたらし、強力なフィードバックのループを作り出す。効果があればあるほど続けたくなり、使用する量を増やすことさえある。このサイクルが、長期的なダメージの可能性を隠してしまう。2015年のレビュー論文は、筋肉増強剤が生理学的報酬系ともつながりを持ち、効果の中毒性をさらに高めて正のフィードバックループを強化することを明らかにしている。さらに悪いことに肝臓障害、ホルモンバランスの乱れ、心臓血管の問題あるいは精神衛生上の問題といった副作用は、すぐに目に見えることがないため、短期的に無視してしまいやすい。
3. 筋肉増強剤を使用するボディビルダーは医者を信じない
2022年にDrug and Alcohol Dependence誌に掲載された研究は、筋肉増強剤で強化されたボディビルダーは、ナチュラルなボディビルダーと比べて自己愛性、境界性および反社会性パーソナリティ障害といったクラスターB群パーソナリティ障害の特徴を強く示すことを明らかにした。筋肉増強剤の使用者に元々そのような特性の傾向があったのか、使用によって特性が発現したのかを確かめることはできないが、筋肉増強剤を使用するボディビルコミュニティには、若者たちが適切な医師のアドバイスを受けることを妨げる一般的傾向が見られる。
2020年にAmerican Journal of Men’s Health誌に掲載された研究は、調査対象2385人の過半数にあたる56.1%が、自分の筋肉増強剤使用を医師に告知せず秘密にしていたことを明らかにした。医師に使用を打ち明けた人も、その半数以上が医師に対して、差別されていると感じたと報告した。
これは、信頼できる健康情報の取得や医療による監督に対する障壁をつくり、娯楽目的の筋肉増強剤使用に関わるリスクをさらに高めるものだ。そのような不信と誤情報の環境は、筋肉増強剤の使用における繊細さと複雑さについて、使用者と医療従事者の両方を教育する緊急性を強調している。
結論
筋肉増強剤の魅力は、特に若い男子の間では、まぎれもなく強い。使用を選ぶその背後には、自己検証の探求、社会規範との合致への願望そして自己肯定感との葛藤が隠れている。筋肉増強剤の使用は、単なる完璧な肉体への探求ではなく、より深い心理学的な要求と脆弱性の反映であることを忘れてはならない。解決方法を見つける上で、最も重要なのは思いやりと理解、教育だ。一連の奥深い心理学的要因に目を向けることによってのみ、筋肉増強剤使用の選択に直面している人々への意味のある支援と指導を提供することができる。
(forbes.com 原文)