教育

2023.11.06 12:30

動き出した大学ファンドと卓越研究大学

政府は、世界に伍する研究大学をつくるため、10兆円の大学ファンドを設立して、その運用益を選ばれた大学(国際卓越研究大学、以下卓越大学)に配布することとした。10兆円を年平均3%で運用できれば、毎年総額3000億円になる。これを、例えば、5校に配布すれば、1校当たり600億円となる。22年度に東大は国から800億円の運営費交付金を受け取っていて、それを含めた経常利益は2664億円であった。仮に卓越大学になることで、600億円が配布されれば、国からの補助金が75%も増加することになる。ほかの収入も入れた経常利益の規模が23%増となることを意味し、かなりの効果を期待できる規模である。

大学ファンドの本格的運用は2022年3月から始まり、2022年度は、過半を債券で運用したため、おもに外国債券価格の下落と為替ヘッジによる損失で、運用益はマイナスとなった。しかし、これは初年度で過度に保守的に運用していたことが裏目に出たので、中期的にはより株式とオルタナティブ資産の比率を高めることで、中期的に3%の運用益は可能であると考えられる。

一方、卓越大学の選定も始まった。今年度は、10校が申請して、東北大学が唯一の候補になった。書類審査で、東京、京都、東北の3大学に絞り込まれ、現地視察を経て東北大が選ばれた。東北大は今後申請内容の磨き上げを行い、文部科学省が、国立大学が経営の合議体をつくることができるように国立大学法を改正したうえで、来年度中に正式に卓越大学として承認されることになる。実際の支援開始は2024年秋もしくは、25年4月からとなる。

9月末に発表されたTHE(Times Higher Education)「世界大学ランキング2024年版」によると、東京大学は29位、京都大学が55位、東北大学は130位である。アジア地域のなかでも、中国やシンガポールの大学の後塵を拝している。日本の国立大学の研究力・教育力の急低下は、04年の「国立大学法人化」、およびそれと同時に始まった「運営費交付金の一律削減」と考えられる。

法人化は、大学の自律的な運営を可能にする、という触れ込みだったが、実際には、予算策定の枠組みや大学のガバナンスに大きな変更はなく、ただ予算の総額が減っていった。2004年から10年間、毎年1%超の削減が続き、13年の運営費交付金総額は04年の約87%にまで削減された。各大学では、順番に、学部が削減対象となり、若手の新規採用が難しくなった学部間で削減率に差をつけなかったため、この時期に本来は拡張すべき分野(コンピュータ科学など)で後れをとった可能性が高い。AI分野での後れ、先進的バイオ研究の後れは、この時期の予算削減が響いていることは間違いない。
次ページ > 「世界に伍する」とは?

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

伊藤隆敏の格物致知

ForbesBrandVoice

人気記事