政治

2023.11.04 12:30

ロシアのウクライナ侵攻は、なぜ起きたか? 専門家が語る「これからの安全保障」

世論調査の失敗が戦争の引き金?

北野:例えば、Aという国がBという国を攻撃する場合、どんな情報を分析するのでしょう。

小泉:ロシアがウクライナに攻め込む場合を考えると、まずロシア軍はウクライナの社会でゼレンスキー政権にどれほど支持があるのか分析したはずです。ロシアの情報機関には自前の調査会社があり、それを使って国内で世論調査するし、敵国でも民間の会社を装って調査をする場合があります。ロシアにしてみれば、わが軍が圧倒的。ゼレンスキーの支持率は下がっていて、ちょっとつつけば激しい戦争になることなく瓦解するだろう、と見積もって攻めた。ところが、ロシアが攻めてきても諦めなかった。

北野:調査に失敗していたと。

小泉:国民や軍の士気など、定量化できないものの分析は難しいです。あるいは、ウクライナの将軍たちがどのくらい上手に軍を動かせて、前線の兵隊がどれほど頑張ってくれるか。言うなれば「来季の巨人と中日、どちらが強いか」という話に通じるわけです。監督がどのくらい選手たちをうまく使えて、選手の打撃や守備がどのくらいかは、やってみなきゃわからない。ここがデータ分析の落とし穴です。

僕自身、開戦前にロシア軍が前線に集まってきている状態は見ていました。衛星でも見えるし、部隊が移動している話もTikTokに出てくる。でも、最終的にロシアが何をしたいかはよくわからなかった。戦争の準備をしているらしいことは見えても、脅しなのか、本当にやるかはプーチンに聞くしかない。僕が侵攻を予言したとする人もいますが「やろうと思ったらやれる能力を国境付近にためている。でも、やるかどうかはわかりません」と解説していました。

北野:どのタイミングが攻撃を仕掛けようと決める最後のトリガーになるのですか。

小泉:国家がどうやって戦争を決断するかは、歴史学に近い話です。それぞれの指導者のキャラクター、その時々の社会の雰囲気で変わってくる。ある時点まで行くと「ここまで準備が進んじゃうともう止められません」と軍隊がときどき言い出します。第1次大戦ではセルビアで小さな事件が起こっただけで、ドイツ軍もロシア軍も全面戦争の準備を始めた。戦う明確な理由がなくても開戦してしまうことが歴史上は起きています。

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文=神吉弘邦 写真=桑嶋 維 北野唯我=文(4ページ目コラム)

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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