満足げな表情を浮かべた理由はほかにもある。社長就任時に断行した組織再編の成果が見て取れたからだ。
「従来は、同じIPでもゲームとトイなど事業ごとにブースを出していました。IP軸戦略のもと、『ガンダム』なら『ガンダム』のブースとしてつくり、お客様からも非常に見やすいかたちになった。集約させたことでバンダイナムコとしてのトータルのアピールができた手ごたえがあります」
ゲームを扱うデジタル事業と玩具を扱うトイホビー事業を統合し、新たに立ち上げたエンターテインメントユニットは、グループ売り上げの約9割を稼ぐ。ほぼ一本足になると、ユニット体制の長所である安定性が失われる。しかし、川口は「あえてアンバランスなかたちにした」と明かす。「これまでは各事業が事業の成長を最優先にし、サイロ化が起きていました。中期の成長を考えると、横の連携をもっと密にする必要がある。そのために今はこのかたちがいい」
海外にもメスを入れた。従来は各地域に各事業がそれぞれ拠点を置いていたが、各地域に1拠点のワンオフィス化を推進した。
「今回のイベントも、ホールディングスが強硬に『まとまってやれ』と指示したわけではありません。IP軸戦略について、現地のみんなが意図を理解して動いてくれた。これは大きい」
バンダイナムコは、特定のIPや領域に惚れて入社した社員が少なくない。思い入れが強いと、良くも悪くも視野は深く狭くなりがちだ。一方、川口は一歩引いて全体を俯瞰する。ホールディングスのトップとしては当然と言えるが、そのスタンスは若手の頃からだったという。
「バンダイに入社したのは玩具が好きだったからです。ただ、周りは筋金入りの社員ばかり。玩具やアニメに対する桁違いの知識や熱量を目の当たりにし、自分のマニア度では太刀打ちできないと悟りました」