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2023.11.27 11:00

応用するのは「目薬の財産」 ロート製薬が再生医療に挑戦する理由

ロート製薬執行役員・再生医療研究企画部長 本間陽一

日本の玄関・羽田空港の隣に開設された「藤田医科大学東京 先端医療研究センター」。

この一角に藤田医科大学と共同で「再生・細胞医療開発講座」を開設したのが、ロート製薬だ。



「一企業では難しいなかなかできない高度な研究を大学と一緒に取り組める点、私たちの細胞製剤をいち早く患者さんに届けられる点に魅力を感じ、参画を決めました」。

そう語るのはロート製薬執行役員・再生医療研究企画部長の本間陽一。

細胞製剤とは患者に投与して治療効果を期待する細胞のこと。同社が提供するのは「脂肪組織に由来する間葉系幹細胞」だ。

多様な細胞の元となる幹細胞のなかでも脂肪由来間葉系幹細胞は成人の生体から比較的容易かつ大量に採取でき、炎症の抑制、細胞の増殖促進、免疫の調節など有用な作用をもつことが知られている。

ロート製薬は2016年に京都、2019年に東京の同社施設で再生医療等安全性確保法が定める特定細胞加工物の製造許可を取得。以来、医療機関や研究機関の求めに応じた、アンメットメディカルニーズ(いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療需要)に対する研究や、自由診療向けの治療のため細胞提供も行ってきた。

薬局やドラッグストアで購入できる目薬、内服薬、スキンケア商品などの一般医薬品メーカーとして知られるロート製薬が再生医療分野へ本格的に進出したのは2013年だ。だが本間は、それ以前から人体の再生能力に注目してきたという。

「若々しい肌」の研究がさらなる展開へ

「1995年から2年間、京都府立医科大学眼科学講座に出向し、角膜の研究に没頭しました。このとき角膜の再生能力の不思議さに触れたんです」

角膜はカメラでいえばレンズに当たる。透明でなければ目は機能しない。

「角膜が混濁したり傷ついたりして移植が必要になる人もいますが、ご高齢の方で透明な状態を維持している人も多い。日常的に光に露出している点では皮膚と同じですが、しわが寄るなど老化しやすい皮膚と異なり、角膜はほとんど老化しません。その再生能力はすごいと思いました」

会社に戻っても本間は角膜再生の研究に没頭した。その成果を元に目薬の開発に取り組んでいた矢先、今度は会社から化粧品開発を命じられる。「化粧品会社に就職したつもりはなかったのですが……」と本間は笑う。

「ほかの社員らと議論するうちに認識を改めました。皮膚が本来もっている再生能力に働きかけ、内部から健康な肌にするようなこれまでにない化粧品をつくるなら、製薬会社らしさが出せると思ったからです」

その後ロート製薬が開拓した機能性化粧品は次々ヒット。同社は瞬く間に化粧品市場で確固たる地位を築いた。

一方、機能性化粧品をめぐる競争は激しさを増していった。そこで皮膚の再生能力の研究を強化するため、同社が2006年に開設したのが「ロートリサーチビレッジ京都」(京都府木津川市)だ。本間は新たな研究拠点とともに発足した再生美容研究室のリーダーとなった。

「皮膚の幹細胞の基礎研究を進めていたところ、皮下脂肪組織に存在する間葉系幹細胞に、若々しい肌を保つ働きがありそうだとわかってきました。

さらにこの幹細胞は皮膚以外の組織にも有用であると世界中からの報告も相次ぎました。これを受け、再生医療分野の可能性を探るため、2011年に先端技術研究室を設立しました。

間葉系幹細胞を使えば、まだ有効な治療法がない難治性疾患に対する医療ニーズを満たすことができるかもしれないと考えたからです」


目に優しい成分を模索し続けた技術

折しもiPS細胞(人工多能性幹細胞)を発明した京都大学の山中伸弥教授が2012年にノーベル賞を受賞する少し前から、国内では再生医療への注目が高まりつつあった。日本が世界を主導して再生医療を進めるべく、関係当局では法整備に向けた議論も始まっていた。

しかしロート製薬にとって再生医療は未知の領域だ。新規事業への進出の不安もあった。

「2011年にトップの山田邦雄も含め、ロートに再生医療は可能なのか侃侃諤諤と話し合いました。そのなかで我々の強みが2つあることがわかったんです」

1つめは、目薬を無菌環境で、かつ大量に生産するノウハウをもっていること。目に直接触れる製品をつくるには無菌環境での製造が求められる。同社は三重県伊賀市の拠点工場にロボットを導入し、ほぼ無人で目薬を製造していた。

そのノウハウを生かせば、同じく無菌環境での製造が求められる細胞も、手間と時間をかけず、すなわち他社よりも低コストで製造できると考えられた。一般用目薬で日本トップシェアを誇るロートならではの強みだ。

2つめは、細胞を扱うノウハウだ。90年代から角膜の幹細胞、2000年代からは皮膚の幹細胞も研究し、製品開発に役立ててきた。幹細胞独特の扱い方に慣れ親しんでいる点も同社の強みだった。

「体の外に取り出した細胞にその生理機能を維持して増殖してもらうには細胞に居心地のいい培地を用意する必要がある。目に優しい成分は何か、どう組みあわせればいいのか模索してきた経験がここに生かされました」

従来、培地に用いられてきた動物由来の血清には、ウイルス感染などのリスクや品質のバラツキがあった。そこでロート製薬は目に優しい成分を配合する技術を応用し、動物由来の成分を一切含まない、かつ間葉系幹細胞に特化した無血清培地R:stem®の開発に成功。これを自社での細胞培養に使うほか、外販もしている。

「培地を自前で用意できるので、何か課題が見つかったとき自分たちで解決できます。培地から細胞製剤の製造までワンセットで実施していることが、わが社の特徴だと思います。細胞は生き物なので、培地の成分によって特性を変えられるんです」

「日本の再生医療全体を盛り上げたい」

細胞の特性を引き出す培地をつくるノウハウに加え、大量に、安く、かつ高品質の細胞を製造するインフラがあれば、後はアイデア次第で、再生医療の多彩なオプションをつくりだすことができるはずだ。

「新たな再生医療のアイデアと開発力をもちながら、細胞を製造するのはハードルが高いと感じてらっしゃる企業は珍しくありません。そんな企業と組んで開発を一緒に進める、あるいは細胞製造については私たちが請け負うといった事業(CDMO)にも取り組んでいます。日本の再生医療全体を盛り上げたいですね」

ロート製薬は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)の下、患者が保険診療で利用できる再生医療等製品の開発に積極的に取り組んでいる。

現在、ヒトの脂肪由来の間葉系幹細胞を用い、大学などと共同で肝硬変、重症心不全、腎疾患、重症下肢虚血、肺線維症などを対象に治験を実施中だ。

今もロートリサーチビレッジ京都ではロボットがアームを巧みに動かして細胞を培養して増やし、凍結して保存する検討が進められている。

「これまで培ってきた技術を生かし、再生医療をもっと身近で、利用しやすいものにできたらと考えています」
 

ほんま・よういち◎1992年にロート製薬に入社。医薬品から化粧品まで、セルフメディケーション事業領域全体のR&Dを推進する役割を担った後、2020年より、新規事業領域である再生医療分野を担当し、細胞製剤の研究開発を進めている。

Promoted by ロート製薬/text by Shinya Midori/photographs by Shuji Goto/edited by Tomoya Tanimura