目指したのは、なに屋かわからないけど立ち寄りたくなる物販店
『おがや』に先んじて2023年4月から、酒の製造過程で出る酒粕を発酵させて作る発酵マヨネーズの販売をメインにした物販店『SANABURI FACTORY』が、駅前からひとブロック先にオープンしている。
こちらも岡住さんが手掛けたお店。東北では田植え終わりの祭りの名(さなぶり=早苗饗)、リノベーションをした素朴なファサードにかかる暖簾の紋は、祭りで神様に捧げる御幣がモチーフだ。
工場の入口が販売所になっていて、自社のマヨネーズとお酒、オリジナルの酒器やグッズを販売。その他にお箸や靴下、文具などもあり、セレクトショップのようだ。
岡住さんは、物販店をつくったのもまた、まちに人を集めるためだと話す。
「お店にしたのは、加工所だけあってもまちが賑わないからです。覗けるお店が増えたほうが嬉しいじゃないですか。東京みたいにコンセプチュアルな店は必要とされないです。東京は差別化しないと生き残れませんが、ここにはそもそも店がないのに、そこでフルオーガニックで、純国産材で、サステナブル。それでデザインが尖って、高額な製品を並べたとしても…誰も喜ばないですよね。セレクトの基準は、地元の人がちょっとしたプレゼントに買いにとか、日用品にも使える、ちょっといいもの置いて。この店ができてよかったわ、って月に一度くらい、お散歩がてらに寄ってくれるお店が理想です」
最初に醸造所とレストランを作った時の反省も生かしている。
「地元の人たちが、私たちはお客さんじゃないよね、となってしまったんです。この地区の象徴ともいえる、男鹿駅の旧駅舎を使わせてもらっているのに」。そんな気持ちが残っていると岡住さんは話す。とはいえ尖ったものを作らないと、男鹿の外から、酒の世界の外から見つけてもらえない。注目を集めないと外の人が来てくれない。だから、次は地元と外がうまくつながるお店を目指した。
男鹿や秋田産品にこだわらず、県内外のちょっといいものを揃えたのにも理由があった。
「例えば秋田のもので統一した方が“ぽい”じゃないですか。でも、案外誰にも刺さらないんです。あの店は何って言われて、なんなんだろね、でも良いよねってフワッとした感じがいい。秋田のお土産買って帰ろうって人は道の駅に行くし。お客さんをいっぱい呼び込んで、仕入れてきた商品を売って成り立たせる店じゃないんですよ。加工品を作っているその脇で、ちょっとした物を売ってそれで成り立つ感じの場所ですね」