この街から失われた“当たり前の存在”を、ひとつずつ取り戻す
今年8月、男鹿駅前に1軒のラーメン店が開店した。
男鹿塩ラーメン『おがや』を仕掛けたのは、「稲とアガベ」代表の岡住さんだ。さらに、「稲とアガベ」はこの店のために、このラーメンに合う「ラーメン専用稲とアガベ」という、特別な酒も作っていた。
これには、「『酒は地域のメディアで名刺』であると同時に『酒と同じくらい、国民食のラーメンも地域の名刺になる』」という岡住さんの考えがあるという。確かに、日本各地に有名なラーメン屋やラーメン文化はあり、全国からわざわざ旅をして、行列してでも山奥でも客が押しかけるのは事実だ。
もうひとつの理由は地域からのニーズだ。2022年に男鹿駅前広場オープンのイベントにてラーメンを出したところ、列は途切れることなく売り切れるまで人が並んだ。予想以上だった、と岡住さんは言う。
「翌日に家から出たら、近所の人に捕まって『お前んところの酒はむっちゃ高いから興味なかったけれど、ラーメンが美味しかった。ラーメン屋いつやるんだ』とか、お母さんたちも、みんなが声をかけてくれるんですよね。もちろん以前は、この街にもラーメン屋があったわけです。当たり前にあった存在が失われている。その当たり前の存在を僕たちの手でちゃんと取り戻す、というのもモチベーションのひとつです。
もうひとつは極めて個人的な理由で。うちは3歳の息子がいるんですが、彼が成長して反抗期になったとき、こんなラーメン屋もない街に生みやがって!…って言われたくないんでラーメン屋を作りたかったんです(苦笑)」
ラーメンで新しい人流と、地域をつくる。一風堂からのエールで最高の一杯に
ラーメンであれば、これまでのお酒のファンとはまた違う人たちが男鹿を目指してきてくれる。家族でラーメン食べに行こう、とやってきて、お酒を買って帰るということもできる。酒ありきでは足を運べなかった層を連れて来られる。
そのレシピの監修をしたのは大手ラーメンチェーンの一風堂(株式会社力の源ホールディングス)だ。ラーメンを通して地域創生を応援するというプロジェクトの第一弾ということで、レシピの監修やアドバイスで見守ってくれる存在だという。
『おがや』は、醸造所の向かいにある。売り切れ仕舞いで昼過ぎには完売というほどオープンからの人気は上々、岡住さんも時々店頭に立って皿洗いをしながらお客さんの笑顔を確認している。