経済・社会

2023.10.28 19:00

トマホーク購入を1年前倒し カギはターゲッティングにあり

トマホークミサイル(Colin Woods/ Shutterstock.com)

日米両政府は10月4日の防衛相会談で、反撃能力の柱として期待されている米国製巡航ミサイル「トマホーク」の日本への導入を、1年前倒しして2025年度から始めることで合意した。当初は、26、27両年度に最新式「ブロック5」(射程1600キロ)を最大400発導入する計画だった。このうち、200発を一世代前の「ブロック4」に切り替えて25年度から購入を始めるという。

日米がトマホークを巡り、突貫工事で調整中 このまま議論なしに突っ込んで良いのか」で論じたように、日本政府が正式に反撃能力の採用を決めたのは昨年12月16日。それに先立つ政府内の議論のなかで、反撃能力の柱として、「そうだ、トマホークがあるじゃないか」といった「半ば思いつき」(関係者)によって導入が決まった。裏を返せば、それだけ急いでいるという意味でもある。特に最近は、中国は不動産不況や青年失業率の悪化、外相や国防相の「行方不明→解任」など、政治も経済も揺れている。米国は元々、習近平体制の一つの区切りである2027年を「台湾有事が起こりうる年のひとつ」と位置付けてきたが、危機がさらに早く訪れるという声もチラホラと聞こえてくるようになった。

だが、トマホークを手に入れたら、それで一安心ということではない。目標を発見し、攻撃手段を選択し、攻撃した後に結果を判定する「ターゲッティング」能力が重要だ。米戦略国際問題研究所(CSIS)のクリストファー・ジョンストン日本部長は「情報収集や偵察、目標選定や相手の損害評価については、当初はほぼ米国の能力に頼ることになる。この分野で実行力を持つには時間がかかるだろう」と語る。

航空幕僚長を務めた日本宇宙安全保障研究所の片岡晴彦副理事長も「現代戦では、戦力の優位性を決めるカギは、技術からデータに移行しつつある」と語り、その一例として、ウクライナ軍によるクリミアのロシア黒海艦隊司令部や通信センターなどへの攻撃を挙げる。ウクライナ軍は9月22日、クリミア半島のセバストポリにあるロシア黒海艦隊司令部をミサイルで攻撃した。片岡氏によれば、ウクライナ軍は当時、攻撃用の巡航ミサイルのほか、小型のおとり用のミサイル(デコイ)やレーダー・通信設備を破壊するためのアンチ・ラジエーション・ミサイル(ARB)、無人機なども組み合わせて攻撃し、ロシアのS400などの防空システムを飽和させるなど、各種データを利用した高度な戦闘管理を行っているのではないかと指摘されている。
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文=牧野愛博

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