「Forbes JAPAN」2023年11月号(9月25日発売)では、「カルチャープレナー」を特集。文化やクリエイティブ領域の活動によって、それまでになかった革新的なビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる若き文化起業家を30人選出し、その活動とこれからの可能性について紹介する。藤本は「カルチャープレナー」の一人に選ばれた。
小山薫堂(以下、小山):僕は「京都」のブランド力は、日本のみならず世界に通用すると思います。それを実感したのは、映画監督のフランシス・フォード・コッポラさんにお会いしたとき。脚本を書いた『おくりびと』でアカデミー外国語映画賞を受賞したと言っても何の興味も示さなかったのに、「京都で老舗料亭を経営しています」と話したら一瞬にして態度が変わって(笑)。彼はワイナリーのオーナーなので、後日、下鴨茶寮の和食と彼のワインのコラボが叶ったんです。たぶん、僕が経営しているのが東京の店だったら、そこまでの引きはなかったんじゃないかな。
藤本 翔(以下、藤本):わかります。Casieは創業7年目のベンチャー企業なのですが、所属アーティストが「一般的ではない場所で展示をしてみたい」と言うので、京都市に相談したところ、妙心寺桂春院で展示できることになったんですね。この特別な舞台のおかげで、アーティストからの信頼度やお客様からの期待値がものすごく上がりました。
小山:神社仏閣は京都の強みですよね。百貨店や美術館以上の文化的価値、時間の積み重ねの象徴みたいなものだから。とはいえ、京都にいれば文化やアートでマネタイズできるかというと、そんなに簡単な話でもなくて。
藤本:ええ。小山さんは下鴨茶寮の経営9年目でミシュランの一つ星を獲得していますが、どのように改革されたのですか。
小山:まず一つひとつロジカルに、不要なコストを削減しました。料理人には新しく先生をつけて精進させたし、従業員には名刺をもたせ、お客様の気持ちや要望を引き出せる関係を築いてもらった。「一つひとつ丁寧に磨いていった」という言葉がいちばん適切かもしれません。藤本さんはどんな苦労がありましたか。
藤本:創業地は大阪だったのですが、正直資金繰りが苦しかったんです。でも、2020年に本社を京都に移動させたところ、タッグを組んでくださる金融機関や団体に恵まれて。「面白い事業をやっているね」だけではなく、「協力するよ」と手を差し伸べてもらえました。
小山:僕も京都は、利益や売り上げ以前に、文化に親しんでいてセンスの良い人が評価される街という印象がありますね。京都で生きていくためには、自分だけ儲けるという精神では絶対にうまくいかない。やはり世の利をつくり出すような視点をもっていないと駄目じゃないかと。
藤本:同感です。一方で、世の利を生み出すには、自らも大きなリスクを取らねばならない。作品を流通させるだけならNPO、大学、研究機関などたくさんあるけれど、Casieはあえて資本主義というサバイバルに挑戦した。多額の資金を調達できるからこそ、アーティストの支援や国内の文化芸術活動への貢献も可能になる、というのが僕の考えです。