「Forbes JAPAN」2023年11月号(9月25日発売)では、「カルチャープレナー」を特集。文化やクリエイティブ領域の活動によって、それまでになかった革新的なビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる若き文化起業家を30人選出し、その活動とこれからの可能性について紹介する。
永山祐子(以下、永山):グッドデザイン賞の審査で「まれびとの家」に出合い、まるで違った建築文化の担い手が出てきたという新鮮な驚きを覚えました。現地を見学すると、ものづくりの小さな生態系が限界集落のような地に築かれていた。秋吉さんの「建築の民主化」という考えが実現されているのを目の当たりにして腑に落ちたのを思い出します。
秋吉浩気(以下、秋吉):僕はデザインすることにコンプレックスを感じて避けてきました。学校の評価や建築コンペは表現の緻密さなどで評価されますが、自分自身の関心は構法やシステムにある。建築に自分の主観を入れず、一般の人にスケッチを描いてもらい3Dのデータに翻訳するような仕事をしていたのです。でも、自分たちの技術やビジョンがどんな形を生み出せるかという事例を見せる必要が出てきた。自分でやらなきゃ道は開けないと「まれびとの家」に取り組みました。
都市文化の担い手として立てる「問い」
永山:私が建築のファサードデザインでデビューした当時、本当は建築すべてを自分の考えと世界観でつくり上げたいからフラストレーションを感じました。でも最近は、すべてを建築家がつくり切る仕事は素晴らしいけれど、そこに絞ると私たちがかかわれない分野がたくさんあるという気づきをもっています。「東急歌舞伎町タワー」の仕事では、外装と内装の一部ではありますが、開発の大きな仕事にかかわり、都市に少しでも影響を与えられたのではないかと思います。最近は設計の手前段階で、一緒に「問い」を立てるところから進める仕事も増えました。プロジェクト全体でなくてもどこかに建築家がかかわることでガラッと違った文化を生み出せる実感があります。
秋吉:資本主義の経済的なロジックを前提にしたとき、まさに文化が侵食されてしまう側面があるのは、ある種のトレードオフです。そこをどう調停すべきか。
僕たち建築家の職能は、中立的な立場で問題を構造化して、具体的な方向性を示せます。その思考や能力を、建築設計のさらに上流で生かせるということですね。
永山:そうです。最終的にはその建築が面白い場になってほしいから、クライアントからの「お題」に対して疑問を持ったときには、議論の時間を長く取ります。歌舞伎町タワーがユニークなのは、超高層なのにオフィスが入らないこと。ほかのエリアでは考えにくい「唯一無二のビル」としての存在感を議論しました。