宇宙

2023.10.25 14:00

観測史上最遠の高速電波バースト発見 1ミリ秒で太陽30年分のエネルギー放出

遠方の銀河で発生した高速電波バースト「FRB 20220610A」の地球までの経路を描いたイラスト(縮尺は不正確)(ESO/M. Kornmesser)

天の川銀河(銀河系)から約80億光年かなたで発生した、継続時間が1000分の1秒(1ミリ秒)足らずの宇宙電波の爆発現象「高速電波バースト(FRB)」が観測された。これまでに検出された中で最も遠方で発生し、放射エネルギーが最大級のFRBだ。

FRBは、瞬間的に輝く単一の電波パルスで、わずか数ミリ秒しか継続しない。全天で1日に数千回は発生していると考えられているが、今回のFRBは極めて特別だ。

発生源を確認

発生源の銀河の名前を取って「FRB 20220610A」と命名されたこのFRBは、2022年6月にオーストラリアのASKAP電波望遠鏡が検出。南米チリにある欧州南天天文台(ESO)の巨大望遠鏡VLTで、その発生源が確認された。今回の発見に関する研究論文は、科学誌サイエンスに19日付で掲載されている。

研究チームによると、FRB 20220610Aの継続時間はほんの一瞬だったが、その瞬間に放出されたエネルギーは、太陽の全放射エネルギーの30年分以上に匹敵するという。

重要な役割

FRBは中性子星が引き起こしている可能性があると考えられている。中性子星は、超新星爆発を起こした巨星の崩壊した中心核の残骸で、高速で回転している。FRBの本質は今も謎のままだが、それでも宇宙科学の進歩に極めて重要な役割を果たすことになりそうだ。

今回の研究を共同で主導した豪スウィンバーン工科大学教授のライアン・シャノンは「これほど大規模なエネルギーの噴出を何が引き起こしているかはまだ分かっていないが、高速電波バーストが宇宙ではよく見られる事象であることを、今回の論文は裏付けている」と指摘した。「FRBを利用して、銀河間にある物質を検出し、宇宙の構造に関する理解を深めることが可能になる」

失われた物質

FRBを利用して銀河間物質の量を測定すれば、宇宙の質量を推定できるとみられている。これは、標準的な宇宙科学ではこれまで不可能だったことだ。

「人体を構成している原子のような、宇宙の通常物質の量を総計すれば、現在そこに存在するはずのものの半分以上が欠けていることが分かる」とシャノンは説明する。「この失われた物質は、銀河間空間に潜んでいると考えられているが、非常に高温で希薄である可能性があるため、標準的な技術を用いて確認することはできない」

また、FRBの周波数と距離から、宇宙膨張速度の正確な値を計算できる可能性もある。

forbes.com 原文

翻訳=河原稔・編集=遠藤宗生

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