北野唯我(以下、北野):天気といえば、私たちは雨や風に関することだと思っています。
斉田季実治(以下、斉田):宇宙にも太陽から吹く「太陽風」と呼ばれる風があります。太陽表面で爆発があると、その風が嵐になってやって来る。地球は大気や磁場で太陽風をブロックしていますが、勢いが激しいとそれらを突破します。宇宙天気予報から飛行機が航行ルートを変えることもあります。
北野:地球上でほかにどんな影響がありますか?
斉田:大規模な爆発だと、過去に北米の電力網に影響が出ましたし、GPSが乱れる例は多いです。ドローンもGPSを使いますが、小型の機器のほうが、より影響を受けやすいです。2022年にはスペースXのスターリンク衛星が約40基墜落しましたが、その原因が宇宙天気だったと報告されました。昨年、総務省がまとめた報告書では「100年に1度レベルの爆発があった場合、携帯電話が最大2週間ぐらい断続的に使えなくなる」とされています。
北野:大パニックじゃないですか!
斉田:太陽の黒点観測はガリレオ・ガリレイの時代からずっと調べられていて、太陽活動は11年周期で極大化し、次回は2024〜25年がピークといわれています。インフラへの影響が大きいので、電力がダウンしても大丈夫なようにしておく。あるいは携帯の通信網に影響が出ても光通信はつながる可能性があるので、複数の手段を用意するような対策が必要です。気象衛星に影響が出たら天気予報が当たらなくなるので、ちょうど台風が来ていたらどうするか、こうした「複合災害」も考える必要があります。
北野:予報の精度はどのレベルになっていますか。
斉田:太陽フレアは1日先までの活発度が4段階で予測されています。その影響は3つの波でやって来ます。まずはX線などの電磁波が8分後には地球に到達する。光の速度と同じですから、認知したときにはもう届いているんですよ。
北野:そんなスピードでやって来る。
斉田:第1波で影響が出るものには、日常から事前に対策する必要があります。第2波では30分〜2日ぐらいかけて高エネルギー粒子が飛んでくる。宇宙にいると大量被ばくしますから、国際宇宙ステーションでは船内の比較的安全なスペースに退避します。最後に毎回起きるわけではないものの、太陽の表面のプラズマがちぎれて飛んでくるCME(コロナ質量放出)という現象が2〜3日後にやって来る。これが大規模に磁場を乱し、電力網に影響を与えます。
何を伝えればいいか、考えてきた
北野:気象キャスターの斉田さんが、なぜ宇宙天気も予報しようと思ったのですか。斉田:もともと宇宙が好きで「星空案内人」の資格をもっています。コロナのときに時間ができたので、ABLab(エイビーラボ)という宇宙ビジネスコミュニティに顔を出しました。そこで宇宙天気のプロジェクトがスタートする話がたまたまあり、一緒にやりましょうと始めたのが3年前の春ぐらいです。