経営・戦略

2023.10.29 10:30

「サヴァ缶」プロデューサーが語る、応援で終わらせない商品づくり

高橋:あんなにおいしいサバの缶詰が100円未満で売られていたんです。構造的に誰も儲かっていないバリューチェーンです。だから震災から東北の水産業を再生するという時に、95円に戻す発想にはどうしてもなれなくて。圧倒的な付加価値をつけた新しいモデルを作ろうと、最初に1缶360円という価格を決めました。
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シリーズで1000万缶以上売れたことで、他社が追随してサバ缶の価格を上げてきて、数年で約2倍に相当する195円ぐらいまで上がりました。マーケット全体の付加価値を押し上げる効果が東北から生まれたことは非常に嬉しかったですね。

中道:ポルトガルは海鮮の缶詰がすごく美味しいんですけど、現地で棚に並んでいる缶詰を見てデザイン性がよくてカラフルで面白いなと思っていたんです。同じ時期に日本の店頭でサヴァ缶を見て、日本にもこんなお洒落な缶詰があるんだと驚いたのを覚えています。

高橋:ショッキングイエローとブルーという地中海カラーですからね。サヴァ缶を発売した2012年当時、世の中の風潮は「東北の食材を食べてかわいそうな東北の生産者をみんなで応援しよう」でした。それも大事ですけど、支援する人とされる人という構図である限り付加価値は生まれません。生産者のヒーローをつくり、ブランドを作るというポジティブな勝負をするには、戦える価値を持つ商品を作らなければいけないと思っていました。
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その価値の中にデザインが絶対にあると思っていて。すごくおいしい国産のサバ缶は95円なのに、たいして美味しくないヨーロッパのオイルサーディンの缶詰がインテリア雑貨店で千円以上で売られている。この差は何なのか。明らかに食としての価値ではなく、デザインの価値ではないかと。インテリア雑貨店で売られている缶詰に匹敵するデザイン性をサバ缶に持たせれば、中味がおいしいのだから360円でも断然イケるという勝ち筋が見えたんです。
ポルトガルで売られている缶詰(franz12 / Shutterstock.com)

ポルトガルで売られている缶詰(franz12 / Shutterstock.com)


中道:正しい選択ですね。応援だと長続きしませんから。

高橋:東北を助けたいという思いはみんな同じですけど、「支援しよう」よりも、いろいろな人のスキルを集めてカッコいいもの、素敵なもの、美味しいものに昇華させた方が、絶対に未来につながるという感覚はありました。

中道:それ以外にもいろいろやられていますよね。

高橋:商品だけでなく食材自体のマーケティングもやっています。素晴らしい食材なのに全く知られていないものがたくさんあるんです。例えば、アカモクという海藻はフコダイン、フコキサンチンの数値が海藻の中でも圧倒的に高くて免疫力向上に効果があるスーパーフードですが、認知度はほぼゼロでした。

それを機能性に焦点を当ててマーケティングした結果、今は不足するほどになり、養殖が始まったり、輸入が始まったりしています。全国チェーンの飲食店でも使われ、認知度も上がってきています。日本の食には無限のポテンシャルがあると思っています。

文=久野照美 編集=鈴木奈央

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