オウムは動物界きってのものまね上手として知られている。複雑で柔軟な発声レパートリーを持ち、生活する中でさまざまな音を学習する。しかし、その広い発声レパートリーにもかかわらず、この才能ある「ものまねタレント」は、自分が属しているコミュニティの中で、個々のメンバーを声だけで識別することができる。どうやっているのか?
それは声紋だ。最近の研究によると、オウムは人間と同じように独自の声紋を持っているらしい。人間の場合、声紋は声道の構造によって作られ、私たちの口調の中に、聴覚的に識別可能なシグネチャー(特徴)を加える。
人間と同じく、オウムも舌と口を使って鳴き声の調子を変える。このため「彼らのうなり声と金切り声は、小鳥たちのきれいな鳴き声よりも、ずっと人間らしい」と論文の主著者で、マックス・プランク動物行動研究所の行動生態学者、シミオン・スミールは語る(スミールは現在デンマーク、オーフス大学の博士研究員として、受動的音響手法を用いてコウモリの声を観察している)。
しかし、声に固有の特徴を持っているのは人間だけではない。鳥類、コウモリ、イルカなども独自の「認識コール(signature call)」を発声することで、コミュニティ内のメンバーを個別に識別することができる。しかし、個人の名前のように使用されていると思われる認識コールは、鳴き声のタイプの1つにすぎない。そして、動物が発する鳴き声のすべてに、固有の音声シグニチャーが埋め込まれていることを示す証拠が、最近になって見つかった。
スミールは思いを巡らせた。果たして、相応の生体構造を持ち、人間同様に複雑な社会生活を送る必要があると思われるオウムも、進化によって固有の鳴き声を作り出したのだろうか? つまり、オウムは、それぞれの個体が発するすべての鳴き声に、固有の声紋を持っているのだろうか?