温室効果ガスの減少量を認証する「J─クレジット」制度。これに関わる、メタンガス削減と生産者の収益向上を両立する新たな農業モデルとは。
気候変動への影響が大きいメタンガス。2020年度の日本のメタンガス排出量は2840万t(CO2換算)で、このうち牛のげっぷ(27%)を大きく上回るのが稲作(42%)だ。水田から発生するメタンガスは、出穂前に一度水を抜いて田面を乾かす「中干し」期間を従来よりも7日間延長することで排出量を3割削減できるとされており、営農支援策を模索していたヤンマーマルシェはNTTコミュニケーションズとタッグを組み、この「水稲栽培による中干し期間の延長」スキームを構築した。NTTコム提供のIoTセンサーやアプリを使用して生産者のJ─クレジット申請を支援し、ヤンマーマルシェが収穫した米のブランディングをすることで、生産者のビジネス拡大と持続可能な農業の実現を図る。
中干し期間延長のエビデンスとなるのがNTTコムのIoTセンサー「MIHARAS」だ。MIHARASは水田に刺すだけで地温、水位、水温などのデータを取得でき、得られたデータはアプリに自動連携し、J─クレジット申請まで一気通貫で完結する。NTTコムの山下克典は「同様のIoTセンサーは他社にもありますが、アプリ連携してJ─クレジット申請まで提供するのが当社の特徴。申請手続きを簡便化し生産者さんの負担を軽減して取り組むことができます。また申請の際、エビデンスは水門の開閉記録や日誌でもよいとされていますが、MIHARASは水位計測グラフや画像等の客観的なデータを保存でき、グリーンウォッシュ対策にも役立つ」と語る。
MIHARASの情報は、J─クレジット申請のためだけでなく、生産者の「勘と経験」をデータ化し省力化や生産性向上等の営農活動にも活用される。
現在、福井県と滋賀県の5カ所で実証実験が進む。中干し期間延長で米の品質・収量低下の可能性もあるため、中干しに適した水田の見極めが鍵となる。ここでもヤンマーマルシェとNTTコムの知見やサポート体制が生かされる。今年10月には東京証券取引所でカーボンクレジット市場が開設され、需要がさらに高まる見込みだ。ヤンマーマルシェの山岡照幸は「J─クレジットは未成熟の市場であるものの、新たな農業モデルに対し特に若手の生産者さんは前向きな反応です。環境に配慮した農作物の生産支援と、需要創出の両輪で舵を取り、持続可能な農業生産に貢献していきたい」と語る。
山下克典◎NTTコム執行役員ソリューションサービス部長。ドコモ経営企画部事業戦略室長等を経て23年より現職。
山岡照幸◎ヤンマーマルシェ代表取締役社長。ヤンマー入社後アグリ事業の品質保証部長などを経て20年より現職。