「NOMURA WORK-LIFE PLUS」のプロジェクトメンバーである松井勘八(以下、松井)と、佐藤の対談を通して、人材確保や離職防止にも効果を促すオフィスモデルについて考えていく。
「ワーク」と「ライフ」、両面の充実が求められる時代
ミライフは「働く、生きるを、HAPPYに」をミッションに掲げ、エージェント業界の常識である企業ファーストで売上を上げるのではなく、100%個人起点のエージェントを実践している。「働き方やキャリアに対する考え方は、社会的な出来事に大きな影響を受けます。08年のリーマンショックで『従来のキャリアアップ思考のままで、本当に幸せになれるのか』という疑問を抱き、11年の東日本大震災では『自分のキャリアを社会貢献に生かしたい』と考える人が増えていきました。そして近年のコロナ禍。『やっぱり最後は家族が大事』と思い至った人が、私を含め、かなり多くなったのではないかと思います。結果、昨今の転職市場において、ワーク・イン・ライフを実現できる会社かどうかを重要視する人が増えています」(佐藤)
こうした流れを受けて、企業側が求められることにも変化が出てきていると佐藤は続ける。
「仕事だけが人生ではないという考え方が浸透したいま、企業も社員のライフについて深く考えなくてはいけない時代になりました。『性格のいい会社』の定義は、ワーク・ライフの両面で社員を幸せにしている会社です。ワークを幸せにするとは、企業のパーパスや社員を成長させる環境、信頼できる仲間がいるといった働きがいがあるかどうかに紐づいています。
もう一方のライフには、ワーク・イン・ライフという考え方が前提にあります。働くことは大事ですが、人生のすべてにしてはいけない。そのためには、企業側が多様な働き方を受け入れる環境をつくることが求められているのではないでしょうか」(佐藤)
テナント企業が福利厚生として活用できる「NOMURA WORK-LIFE PLUS」
優秀な人材を確保し、離職を防ぐには、社員の理想の働き方、生き方を支援する取り組みがひとつのカギとなる。とはいえ、中小企業やベンチャー企業にとっては決して容易ではない。そこで注目されているのが、野村不動産の「NOMURA WORK-LIFE PLUS」だ。「NOMURA WORK-LIFE PLUS」は、ビルを貸す側である野村不動産が、入居するテナント企業すべてに提供しているサービスで、いわゆる企業の福利厚生を担う役割も持っている。そのコンセプトは「働く人すべてに、WORKに+ LIFEに+。」。4つの領域を網羅しており、働く場所の選択や快適空間に特化した「フレキシブルワーク」、バックオフィスを支える「ビジネスソリューション」、従業員の学びをサポートする「スキリング」、そして体と心の健康を促す「ウェルネス」。
「NOMURA WORK-LIFE PLUS」プロジェクトメンバーの松井は、開発当時、渋谷にある野村不動産のビルにオフィスを構えているミライフの佐藤にアドバイスをもらったと話す。
「どのようなサービスを展開するかを検討した際、佐藤さんにご意見を伺いました。そのとき『人生を幸せにするには、ワークとライフの両輪が大事』という助言をいただき、この4つの領域でよいという確証を得ました」(松井)
ミライフは現在も同じビルに入居しており、佐藤は「NOMURA WORK-LIFE PLUS」の利用者でもある。
「弊社はフルリモートのため、野村不動産さんのサテライト型シェアオフィス、『H1T(エイチワンティー)』を利用できて助かっています。複数のオフィスを利用できるので、打ち合わせなどの出先で、少し時間が空いた時にもよく使わせてもらっています」(佐藤)
サテライト型シェアオフィスがワークを幸せにするサービスであるのに対し、ライフを幸せにするのが「ウェルネス」。特にテナント企業の反応がよいのが、フィットネスクラブが無料で利用できるサービスだ。
「弊社系列のフィットネスクラブ『メガロス』を月2回まで無料でご利用いただけます。テナント企業様にサービスをご説明する際、すごく反応がいいですね。ウェルビーイングの観点で重要な健康をサポートすることに、企業様の意識が高まっていることを感じます」(松井)
さらに佐藤はベンチャー企業の経営者という立場から、以下の点も評価する。
「福利厚生の一環として、『NOMURA WORK-LIFE PLUS』を社員に提供できることはすごくありがたい。もちろん福利厚生のみで就職・転職先を選ぶ方はいませんが、充実していたらうれしい。なにより、これほどのサービスを自社で揃えるのは容易ではないので、企業側にとっては求職者に向けた大きなセールスポイントになるのではないでしょうか」(佐藤)
佐藤が話すとおり、「NOMURA WORK-LIFE PLUS」と同じような取り組みを行うのは、企業側にとっても負荷が大きい。しかし同サービスは初期費用・月額基本料金なしで利用できる。このサービスは社員だけでなく、経営側にとっても大きなメリットとなり得るのだ。
離職防止のために提供できる新たなサービスも模索する
「NOMURA WORK-LIFE PLUS」を開始してから、およそ半年が経過。利用する企業、社員数は右肩上がりで増えているという。「最近利用者が増えているのが、バックオフィスをサポートする『ワークコンシェルジュ』です。図書室の貸出票の整理や有給休暇管理など、人事・総務担当者様が抱える課題を気軽にご相談いただき、業務軽減をサポートしています。ほかにも1~2か月に一度実施している『ビジネスセミナー・交流会』も好評です」(松井)
これまで野村不動産では、著名な有識者とともに「付加価値のつくり方」「オープンイノベーションの極意」などをテーマにセミナーを展開してきた。こうしたセミナーを企業の人事・総務が独自で行う場合、日程調整や出演交渉などといった業務の負担が大きい。テナント企業は参加するだけでいいという手軽さも大きな魅力といえるだろう。
松井は、「NOMURA WORK-LIFE PLUS」の領域をさらに充実させるべく、「ビジネスソリューション」と「スキリング」を中心に、サービスの追加やアップデートを図っていくと話す。具体的なコンテンツは「利用者様の声に耳を傾けながら決めていきたい」という松井に、さっそく佐藤から「個人だけでなく、集団に対するサービスがあれば、なおうれしい」との提案がなされた。
コロナ禍によるリモートワークの定着で、「チームで集まる」ということ自体が希薄となっている昨今。仲間と触れ合い、互いがどんな考え方を持っているのかを知ることで、人は心理的安全性を覚える。それが良好な人間関係を構築し、人材の確保や離職防止、企業の人的資本経営の促進という好循環を生んでいくと佐藤は語る。
「一般的に企業は短期業績に追われるあまり、社員同士が相互理解を深める時間や場所が足りていないと感じています。私はよく『関係の質』というのですが、それを構築・向上できる場があれば、離職率は飛躍的に下げられます。なぜなら社員の退職の一番の原因が、人間関係だからです。合宿ができる場所やキャンプ場など、御社がチームビルディングを構築できる場所をつくってくれたら、助かる企業は多いのではないでしょうか」(佐藤)
「確かにおっしゃるとおりですね。我々の一番の強みは場を提供することですので、ぜひ前向きに検討させていただきます。こうした生の声を伺えるのは大変貴重ですし、他のユーザー様の声も伺いながらバージョンアップしていきたいと思っています」(松井)
最後に2人に今後の展望を尋ねた。
「ミライフは必要以上な拡大は目指していませんが、それでも弊社の想いに共感し、仲間になってくれる方々がいます。これからも社員のワーク・イン・ライフを大切にしながら、お客様や社会に貢献できることをやり続けたいと思っています」(佐藤)
佐藤の言葉を受け、松井は働くすべての人々にとって理想の働き方、生き方を実現できる一助となれるよう、さらなる高みを目指したいと語る。
「新たなサービスの追加やアップデートはもちろんですが、将来的にはご利用いただいているテナント企業様にとって、我々のサービスがどれだけの効果をもたらしているのかも数値化していきたいと思っています。場所やサービスのご提供にとどまらず、企業様のさらなる成長に少しでも寄与していくことが我々の使命だと思っています」(松井)
過去に類を見ない、この先鋭的なオフィスモデルとサービスが、ワークとライフを充実させる理想の企業づくりに寄り添い、支える存在になる。そんな未来を目指し、野村不動産の挑戦はこれからも続いていくに違いない。
NOMURA WORK-LIFE PLUS ブランドサイト
https://www.wl-plus-web.com/
さとう・ゆうすけ◎ミライフ 代表取締役。ベルシステム24を経て、2004年にリクルートエージェント(現・リクルート)に中途入社。人材エージェントのコンサルタントとして独立し、16年にミライフを立ち上げる。著書に「性格のいい会社」(クロスメディア・パブリッシング)などがある。
まつい・かんぱち◎2013年に新卒で商社に入社。出張でインドや中南米などを回るなかでインフラ事業に関心を持つ。19年に野村不動産へ中途入社。ビルディング事業部を経て、都市開発第一事業本部 企画室 イノベーション推進課に異動し、「NOMURA WORK-LIFE PLUS」プロジェクトに立ち上げから携わっている。