ビジネス

2015.07.11

電通総研Bチームの NEW CONCEPT採集

歌う革命の舞台となったTallinnSong Festival Grounds。<br />いまもエネルギーを感じる(気のせい?)。

「小」の価値に注目する スモールメリット

小さいことのスケールメリットのこと。経営規模が大きいほど生産性や経済効率が向上するという「スケールメリット」の「大」に対して、コンセンサス、リスク、スピード、クオリティコントロールなど様々な面での「小」の利点。


万物の始まりは常に小さいもの。この連載も小さいことから始めてみたい。21世紀のぶらぶら社員である僕は様々な所に出張するが、ずっと寄ってみたい国があった。それはエストニア。理由は、オープンガバメント率1位でも、スカイプを生んだ国だからでもなく、singingrevolution。1991年ソ連から独立時、歌で行ったという無血革命。歌で? どうやって? それが知りたくて、フェイスブック経由で友人が紹介してくれた夫婦にインタビューに行った。



会ったのは、女性建築家KulliとToonの夫妻。お手製の伝統料理を前に、革命のことを聞く。彼女は当時18歳。「私は恋と革命で忙しかった」らしい。カッコイイ。歌で革命が起こった理由(5年に一度開かれる歌のフェスティバルの伝統と関係している)や、ヒューマンチェーン(89年、バルト三国縦断600キロを人々が手をつなぎ人間の鎖をつくった)についても教えてくれる。そして「私たちは国をゼロからつくったんだ。」とまたカッコイイことを言う。「配給だった牛乳が、独立して急に、あれ? どこから手に入れるんだっけ? となった。つまり貿易会社もなかった。外務大臣も30代。すべてはそんな所からはじまった」。Q&Aは「なぜエストニアは新しいことを起こすのが早いの?」「国が小さいから、シンプルに効率的にやらなくちゃいけない。それをみんなで考えてささっとやってしまうんだ」と革命以外へ発展し、最後、日本についての話になる。

話を聞いたKulliとToon。 タリン出身建築家とオランダ出身アートディレクターのクリエイター夫妻。
話を聞いたKulliとToon。
タリン出身建築家とオランダ出身アートディレクターのクリエイター夫妻。

いわく「変化を生むには、日本も一度壊れないと無理じゃない?」「そしてもっと若者を抜擢しないと」。通説の「創る前に壊すべし」も、彼らに言われると説得力が断然違う。その通り。しかし今の日本でそれができるか? 古いものが簡単には壊れないだろう。では、壊さずにどう変化を生むか? それがきっと僕らの課題だ。そう思いながら帰国する、以上がレポートの超抜粋版。
 
さて、そこでみなさんと考えたい。壊さずに変化を生む、その方法を。たぶんヒントは、エストニアでいちばん実感した「スケール」のことだ。
 
エストニアは130万人の小国(福岡市より小)。コンセンサスが取りやすく、フットワークが軽い。ビジョンそのままエッジの利いたアウトプットがなされる。つまり、小さいことのスケールメリットを生かしている。一方、日本や日本企業は大きく、規模はある。だがそのせいで動きにくい。実現までにイロイロあり、薄く丸いものになりがち。そもそもビジョンがないのが問題という説もあるけど。
 
帰国後まとめた変化のための仮説が下記の図だ。まずビジョンや哲学をキープしたままアウトプットできる小スケールでモデルケースを生む。それをスケールを持つ所が取り入れていく。大小両方のメリットをうまく使うハイブリッド作戦。

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これは、焚き火と同じ。はじめに紙に火をつけて、小枝に火をつけ、薪を燃やす。これで長く燃える大きな炎が起こる。しかし、今の日本は、丸太に石油をかけて早く大きな炎を起こそうとするインスタントなやり方が多い。西洋の概念の鵜呑みとか。だからビジョンがない物事が多く、大きな炎が起こらないんじゃないか。物事には順番がある。
 
そんな矢先、今度は石川県で西田栄喜さんに出会った。耕地面積30アールの日本最小専業農家。小さい故のエッジィな工夫の数々。同業者はもちろん、農水省や著名ミュージシャンまでもが視察に訪れる。そして美味しい野菜だけでなく言葉もつくってしまう。僕が書いてきた「小さいことのスケールメリット」を彼は「スモールメリット」と表現する。そうそう、そういうことだ。彼はこのモデルの先駆者だ。

石川県能美市の日本最小専業農家「風来」の西田栄喜さん。「スモールメリット」は彼のブログで発見。初めから6次産業化を計算した野菜づくり、雑草のヨモギも餅にして商品化、農業機械はクラウドファンディングで調達など工夫満載。
石川県能美市の日本最小専業農家「風来」の西田栄喜さん。「スモールメリット」は彼のブログで発見。初めから6次産業化を計算した野菜づくり、雑草のヨモギも餅にして商品化、農業機械はクラウドファンディングで調達など工夫満載。

世界の最小単位は個人。スモールを突き詰めると個人に行き着く。大事なのは、今こそ一人ひとりが、やりたい事、好きな事、信じる事を、小さくていい、いや、むしろ小さく勇気を持ってやるべき、ということだ。カドのある石をみんなで百石投じる。スモールメリットを生かして。それが小国ながらEUの星と言われるエストニアと日本最小専業農家から導き出せる、変化のためのはじめの一歩だ。
 
自己紹介が最後になりましたが、僕らBチームもアイデアを持つ個人が集まった小さなチームです。世界から気づいたまだ小さなコンセプトの芽をこれからシェアしていきます。しばしお付き合い宜しくお願いします。



電通総研Bチーム◎電通総研内でひっそりと活動を続けていたクリエイティブシンクタンク。「好奇心ファースト」を合言葉に、社内外の特任リサーチャー25人がそれぞれの得意分野を1人1ジャンル常にリサーチ。各種プロジェクトを支援している。平均年齢32.8歳。

倉成英俊 = 文 尾黒ケンジ = イラストレーション

この記事は 「Forbes JAPAN No.13 2015年8月号(2015/06/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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