今回はそのビジネスの発火点やガス気球テクノロジーの可能性について聞くとともに、デル・テクノロジーズの製品が同社の成長にどのように貢献しているのかを聞いた。
「宇宙を自分の眼で見る。創作物である映画でではなく、科学者というフィルターを通した記録映像ででもなく、誰にでも、自分の肉眼で宇宙を見る体験を、提供したいのです」
そう語るのは、宇宙スタートアップ「岩谷技研」の代表取締役 岩谷圭介(以下、岩谷)だ。彼はすでにガス気球を成層圏まで飛ばし、帰還させる実験を、400回以上成功させ、有人飛行も実現している。
20年の第三者割当増資により、大型気球開発に舵を切った岩谷技研。直近の目標は、2人乗りキャビンを備えた気球の打ち上げだ。現在有人飛行における国の認可を待つばかりの、準備万端の状態なのだという。
しかし、その道のりは決して平坦なものではなかった。
誰もが宇宙遊覧を体験できる世界を目指して
富裕層を想定した宇宙旅行開発は盛んだ。「現在、宇宙旅行の費用の相場は1人100億円を軽く突破します。ソユーズ社(ロシア)のロケットで宇宙ステーションに滞在するプランは200億円程度、アメリカのスペースX社は、打ち上げコストだけで60億かかるそうなので、滞在費を含めるとおよそ250億円に達すると思います。
宇宙遊覧の最大の課題は、そうした莫大なコストです。コストを下げるためにAmazonの創業者、ジェフ・ベゾスのブルーオリジン社や、ヴァージン・グループの創設者、リチャード・ブランソンのヴァージン・ギャラクティック社などは、ロケットエンジンで高く上げ、そのまま降りてくることでエネルギー量を少なく済ます『サブオービタル飛行』で7,000万円程度まで単価を下げました」
大枚をいくらでもはたく人々相手ならば、ビジネスとしても成立しやすいだろう。ただ、一般人には高嶺の花だ。岩谷はロケットとは別の道を歩むことになる。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクに憧れ、科学者の道へ
岩谷はなぜ宇宙に憧れ、ロケットではなく気球を使う結論にたどり着いたのだろうか。「幼稚園時代に、当時はまだ実在していなかった宇宙ステーションを描いた本と出会い、宇宙に興味が湧きました。自分が知っている世界の向こう側にまだ世界がある。そう考えるだけでワクワクしました」
「従来到達できなかった場所に、到達できるようにするのが科学技術です。私が“科学者になりたい”と考えるようになったのは、ごく自然なことでした」
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクが次々と生み出す発明品を見て、科学への憧れをさらに募らせた岩谷は、北海道大学工学部機械知能工学科へ進学。ロケット工学を学ぶことにした。ところが、学べば学ぶほど、経済性を含め、打ち上げを成功させることがいかに困難かを、岩谷は理解する。
「研究にかかる膨大なコスト。その原因のひとつは部品の多さです。ロケットは、打ち上げ装置を含めると80万もの部品から成り、スペースシャトルに至っては100万を超える部品が必要です。製造、組立工場を建設し、管理・通信・管制システムまで整えるとなると、気の遠くなるような金額になってしまいます。到底、いち学生がどうこうできるものではありません」
加えて、ロケットの打ち上げには岩谷が無視できない確率が付きまとうものだった。
「ロケットが墜落せずに地上に帰還できる率は97%と言われています。つまり死亡する確率が3%あって、これは一般向けのサービスとしては無視できない数値です」
経済性と、安全性。研究を進めるほどに、ロケットは現実的ではないと、痛感する日々。そんなある日、宇宙が見える高さまで気球を飛ばしたという米国の記事を目にした岩谷は、インスピレーションを掻き立てられたという。
「課題は、気球が解決してくれる。そう直感したのです。気球を成層圏まで飛ばせば、宇宙が見える。その方法なら、現実的な経済規模で何とかできるのではと考え、11年から気球の研究を始めました」
ところが、気球は未開の研究テーマ。ロケットの研究データは存在するが、気球に関するデータはほぼ存在しないという事実に気づく。
「周囲からは『気球で宇宙を見るなんて到底無理だ』『誰もやったことがないというのは、できないからだよ』と諭されました。
でも自分はあきらめきれず、実験を強行しました。しかしそんな折、風の計算がうまくいかずに、実験機が墜落してしまうという失敗に見舞われてしまったのです」
このときばかりはがっくりと肩を落とし、一度は夢をあきらめかけたという。しかし一週間後、岩谷の携帯電話が鳴った。
「着信画面を見ると知らない番号。恐る恐る出てみると、『浜辺で実験機を拾ったよ』という知らせでした。そうして幸運にも実験機を取り戻すことがでたのです。
沖に流されずに浜辺に、無人の土地が多い北海道で、人のいる場所に漂着した、しかも実験機のデータを見ると、雲の上からの世界がきちんと映っている。偶然に偶然が重なり、再び研究に向かう情熱が湧いてきました」
その日から打ち上げ実験400回、地上試験は数知れず。試行錯誤を繰り返し、データを徹底的に取っていく毎日が始まった。なかでも安全性にかけては特に慎重を期し、メーカースペックが正しいかどうか、ひとつ一つ実際に耐久検査をして自分の眼で確認していったという。
「なぜなら“人を乗せて飛ばす”ことを最終目標にしていたからです。そのためには、これまで以上に、実験を繰り返さなければなりませんでした。当然、資金が必要です。そこで研究費用を捻出するためにビジネスを自らでつくり出すことにしました」
気球打ち上げの事業化、「岩谷技研」の誕生
では「岩谷技研」はどのようにビジネスとして始動したのだろうか。「08年にはソフトウェア会社を立ち上げ、同時にカメラを搭載した気球の打ち上げも依頼されるようになり、少しずつ収益が出るようになっていきました。
それらの売り上げを研究開発に投じ、開発した技術を糧にまた依頼を受ける。その繰り返しで少しずつ研究を深めていきました。取引先に法人化するようにと要望されたのを機に、16年に『岩谷技研』を設立したのです」
岩谷技研のビジネスが本格化したのは、20年のことだった。岩谷は自身の“人を乗せて飛ばす”というアイデアを投資家たちに説明して回り、第三者割当増資を成功させた。晴れて本格的に、人を乗せることが可能な大型気球の開発に着手できるようになった。
22年には念願の、気球+有人キャビンによる有人打ち上げにも成功させたという。
「高度4,000mを超えると、人間は生身で呼吸ができなくなります。25km以上の航行を可能にするには、生命維持装置の開発が必須なのです。その装置の開発はすでに終了しています」
あとは国との調整が終わるのを待つだけだと、岩谷は現状を説明する。気球、キャビン、運航スタッフ、追跡チームなど、必要な装置の開発はすべて終了した。いま岩谷技研は世界最高峰の気球運営チームになっていると、胸を張る。
もうすぐ実現するのは、2人乗りキャビンによる商業有人飛行だ。
「岩谷技研」の開発をサポートするデル・テクノロジーズ
岩谷技研はスピード感たっぷりに、夢の宇宙遊覧気球の開発を進めている。当然、技術開発の基礎を支えるのは、PC環境だ。同社は18年に、事業拡大のために従業員を迎え入れるタイミングで、デル・テクノロジーズ製品を導入したという。「PCを従業員が増えるたびに発注するのは、手間がかかります。そこで従業員たちが、スピーディーな開発に専念できるように、デル・テクノロジーズ アドバイザーを活用して、モニターを含めPCを導入したのです。さまざまな部署の要望に合わせた提案をしてくれるので非常に助かっています」
ここ3年で、岩谷技研の社員は一桁から50名規模にまで拡大した。PC環境は、管理、開発の部署でも要求スペックが違う。そうした複雑な状況に対するきめ細かな提案を行っているのが、デル テクノロジーズ アドバイザーだという。
「CADだけならハイスペックな製品は不要かもしれませんが、シミュレーションや解析を行う場合はそうはいきません。そうした的確な製品の選択に加え、迅速な環境整備も重要です。納品・セッティング・修理・アップグレードに時間や手間がかかってしまっては、事業自体がストップしかねません。
ベンチャーはスピードが命です。私たちのスピードに対応可能なサービスが、デルだったのです」
現在岩谷技研は、毎月2名のペースで社員を増員し、部署も増えている。スタートアップの成長を支援する「デル起業家支援プログラム」に参画していることで、予算を効果的に配分できているのもメリットだと、岩谷は指摘する。
そんな岩谷がいま、デル・テクノロジーズに期待しているのは、社内インフラの整備だ。
「先日、アドバイザーの方に、我が社もそろそろ情シス(情報システム部)スタッフが必要な規模になっているとご提案いただきました。こうした社内システムの状況把握や、適切な提案ができるのもデルさんの強みだと思います」
岩谷は情報の社内共有を徹底するために、岩谷技研の社内組織を、完全ピラミッド型に仕立て上げている。目指すのは報連相が行き届いた組織でそれぞれが自分の仕事にフォーカスできる環境だ。
「人の命を預かるビジネスでは、知らなかったでは済まされないのです。一人ひとりが肝に銘じて仕事に向き合わなければなりません」
そのためにも各社員がスムーズにやりとりできるネットワークなどのインフラ面の充実は急務だと岩谷は考えている。
「会社が成長すればするほど、セキュリティーの問題も浮上してきます。だからこそ知見の深いアドバイザーに、俯瞰した眼で、私たちに最適な環境を提案していただきたいのです」
岩谷圭介(いわや・けいすけ)◎北海道大学工学部機械知能工学科にてロケット工学を学び、在学中の2011年、気球の研究開発を開始。14年に宇宙実験や宇宙映像制作で事業化、16年に岩谷技研を設立。20年の第三者割当増資により、大型気球開発に舵を切った。
デル テクノロジーズ アドバイザーとは
専任IT担当者の確保が難しい小規模企業を中心に、ITに関する顧客の悩みや要望をヒアリング、課題の整理と解決策の提案を行うのがデル テクノロジーズ アドバイザーの役割だ。「製品を売って終わりではない」そうした強い意志とともに、さまざまなITの専門領域に特化したチームが、顧客企業に対してオーダーメイドでソリューションを提供し、支援する。有形無形のサポートで、ビジネスを成功に導く仕組みが、ここにある。デル起業家支援プログラムとは
2023年4月から始まった、創業10年未満のスタートアップ企業を支援する無償のプログラムが「デル起業家支援プログラム」だ。その内容は、以下の4つである。①経験豊富なアドバイザー
スタートアップ企業が直面する課題やニーズに対して、特別なトレーニングを積んだ専任のテクノロジー アドバイザーが、ユーザーに寄り添い、ビジネスの状況を理解し、最適なアドバイスを提供する。
②よりスマートに、より迅速に成長
パソコンからインフラを支えるハードウェア、各種サービスまで、ビジネスの成長に応じて柔軟に拡張できる最適なテクノロジー ソリューションを提案する。
③投資の効率化
スタートアップ企業が限られたリソースを最大限有効活用できるよう、メンバー限定の特別割引や柔軟なファイナンス ソリューションの提供でサポートする。
④ネットワークの拡大
メンバー限定のコミュニティーをはじめ、インキュベーター、アクセラレーターなどとのネットワーキングの機会を活用できる場を提供する。
デル起業家支援プログラム
https://dell.jp/D4S
Dell Technologies × Forbes JAPAN
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