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2023.10.25 11:00

ものづくりで徹底したのは素人目線 顧客を中心とする「利他の心」が生み出した成功とは

創業36年、化粧品事業を軸とするロイヤルグループは、国内外に代理店を約5,000店舗ももつなど、ネットワークを拡大してきた。

代表取締役会長・桃園忠は若くして起業し、その業種が多岐にわたっても、一本芯のある経営方針を貫いた。桃園曰く、成功のカギは「利他の心」。桃園がビジネスの「本質」ととらえるその経営哲学に迫る。


商品の愛用者は30万人超。一時は120億円という年間売り上げを記録した、ロイヤル化粧品。この実績を一代で築いてきた代表取締役会長・桃園忠(上写真)は、山形県天童市の農家で、4人兄弟の末っ子として生まれた。

決して裕福とは言えぬ暮らしでの楽しみは、自作した道具で遊ぶ野球や、近所の小川での魚釣り。遊び方や場所、ルールなどはすべて自分が考え、友人たちを率いたという。そして気がつけば、「周囲からは『ガキ大将』と呼ばれていました」と桃園は笑う。そんな氏が初めてお金を稼ぐことに関心をもったのは、小学4年生のころだ。

「遠足のお弁当の時間のことです。母の愛情がこもったお弁当は、どんなおかずであってもうれしいもの。でも当時、高級品だった大きな魚肉ソーセージを、隣にいる友達が丸かじりして食べているのを見て、驚きました。とにかくうらやましくて、『将来は自分の好きなものが買える人になりたい』と思ったのです」

わが目で確かめたものを信じ、自動車販売事業から転換

当時、中学卒業後は地方から都市部に集団就職する者が多くいるなか、桃園自身は就職を希望したが、進学を願う両親や教師の勧めで、定時制の高校へ入学する。昼は自動車整備工場に勤め、夕方からは授業。帰宅後も、整備士の国家資格を取るために独学で勉強するというハードな生活を送った。

そして工場で一部の修理を担うようになると、幼少のころから培ったサービス精神を発揮。得意先への少しの整備なら、無償で対応して顧客満足度を高めていった。

しかし当時の社長は「どんなに小さな作業でも顧客に請求せよ」という考え方だった。利益重視のビジネスに違和感を抱いた桃園は、理想を追求すべく起業を決意。高校卒業後に自動車の販売修理業を始めた。

「まず資金がなく、自動車のような高級品の仕入れは不可能です。よって知識・経験を生かし、売りたい人と買いたい人をつなぐ仕事にしようと考えました。販売店と顧客、両者がウィンウィンになるように接客し、仲介手数料を売り上げにします。販売のほかに、修理業も行い、やがて『車のことなら桃園に頼むといい』という評価をいただくようになりました」

そんな自動車業が軌道に乗ったころ、ビジネスを拡大させる転機が2度、桃園に訪れた。

1度目は洗剤、2度目は女性用インナーウェアの販売代理業をもちかけられたのだ。どちらの商品も桃園自身が興味をもっていたわけではなかったが、商品そのものの良さと培ってきた販売力をもってすれば、ヒットさせられる自信はあった。

周囲に試供品を配ると、反応は良く、手応えを感じた。こうして2つの事業は順調に拡大していった。

顧客の声を真摯にヒアリングしゼロからの商品開発に挑戦

一方、桃園のビジネスが軌道に乗り始めた1970年代当時の社会では「黒皮膚病裁判(大阪化粧品被害賠償請求訴訟)」が議論されていた。

顔の至る所にシミが増える皮膚病の一種で、その原因のひとつは、当時の粗悪な化粧品だ。桃園の周囲の女性からも「良い化粧品があれば」という声を聞くようになった。

そこで初めて自身での商品開発を決意し、数年かけて、化粧品の研究を重ねていく。問題意識やビジョンを、メーカーの技術者などにも相談しながら試行錯誤し、1987年には、鉱物油をいっさい使用しない、完全ノンオイルの純金入りオールインワンクリームをつくり上げた。

ここで徹底したのは「素人目線」のものづくりだ。

「商品開発においては、私が化粧品について素人だったことが功を奏しました。例えば『化粧品づくりに欠かせない要素とは何か』『この金額を売り上げるにはどうするか』といったスタートでなく『お客様は何を求めているのか』を追求したのです。それが、私の経営理念『利他の心』でもあります。いわゆる『利己』とは対照的に、相手の利益を考えることが『利他』です。人間のさがとしても、自分の感動したことは自然に人にも共有したくなるものです。だから、売ろうとしなくても自然に売れる、商品が一人歩きするプロダクトを目指すのです。それこそが本物の商品だと、私は考えています」

そして近年では、オールインワンクリームや洗顔料といった基礎化粧品のみならず、ボディケアや、インナーサプリなども販売。すべて「女性の自然美を引き出す」というコンセプトに基づいて企画・商品化している。

オールインワンクリームや洗顔料といった基礎化粧品を中心に、近年ではインナーサプリなども発表。「湯あがりの肌」をコンセプトとして、女性の素肌美をサポートするラインナップ。

また、開発や製造も自社で行うために完全自社工場を立ち上げ、商品管理も徹底した。業界ではいち早くトレーサビリティシステムを導入し、万が一のときのアフターフォローにも目を配った。

「ビールもラーメンも消費者が『おいしい』と思えなければ売れません。スタートは『どういうものを求めているのか』と顧客の声に耳を傾けることから始まります。私もこのシンプルなプロセスで化粧品づくりと向き合ってきました。常にお客様にとって良いものをつくり、お客様を大事にし、お客様からの信用を裏切らないということです。そのために自社工場で、徹底した品質管理を行っています」

既存の商品の可能性と向き合い、グローバルな社会貢献を継続する

桃園は、地方創生などの取り組みに共感した市区町村などへ積極的に寄付を行い、5年連続で紺綬褒章を受章している。企業としての利益のみを追求せず行政のサポートにも回っている現在。将来のビジョンをどう考えているのか。

「直近で新しい分野への参入は考えていません。なぜなら化粧品事業としての使命がまだ終わっていないからです。おかげさまで今では日本のほかにハワイ、アジア諸国にも多くの愛用者がいらっしゃいますが、世界のどこかに、まだ我々の化粧品を求めている人がいるはず。まずはそのすべての方にお届けできるよう努めます。当社の商品は、審査が厳しいことで知られるハラール認証も取得し、中東諸国への進出も可能となりました。引き続き『利他の心』と確かな商品力をもって、グローバルにお客様に貢献することを目指します」

人々が本当に求めているものは何かを追求することが、ビジネスの成功へとつながっていく。桃園の挑戦は、まだ道半ばである。


ももぞの・ただし◎山形県天童市出身。複数の事業経営を経て1987年にロイヤル化粧品設立。1998年にはハワイ支社を開設するなど海外にも進出。2004年に本社ビルを港区六本木に移転。著書に『利他の心』(日本流通産業新聞社出版)。

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