関係者によれば、中国の農融外務次官補は、処理水放出について日中の2国間協議では言及したものの、日中韓三カ国協議では触れなかった。大騒ぎした経緯もあり、2国間では触れざるをえないが、必要以上に騒ぎを大きくしたくないという計算が働いたのかもしれない。9月6日には、インドネシアで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議の機会に、李強首相が岸田文雄首相と立ち話を行ったが、処理水放出を批判すると同時に日中関係改善にも言及した。複数の関係者は「中国は振り上げた拳の置きどころを探っている」と指摘する。
中国は当初、日本や韓国、台湾など国際社会がキャンペーンに同調すると計算した。7月に行われたASEAN関連外相会議での共同声明でも、中国は当初、処理水排出を非難する文言を入れようと活発な外交戦を展開していた。ところが、国際原子力機関(IAEA)が日本の説明を支持したこともあり、日本政府を孤立させることに失敗した。太平洋地域でも、中国のキャンペーンを明確に同調したのは、安全保障協定を結ぶパプアニューギニアと、9月下旬に日本の水産物禁輸の検討に言及したロシア程度にとどまり、「中国の孤立」が目立っている。
防衛省防衛研究所の飯田将史地域研究部中国研究室長は「中国は自分たちのイメージを大事にします。処理水問題を巡る際だった言動は、国際社会に悪い印象を残します。中国もこれ以上、状況が悪化するのは避けたいでしょう」と語る。今後は、中国が「暫時」と但し書きをつけた、日本の水産物禁輸措置をいつ解くのかに注目が集まる。飯田氏は「中国の国内事情次第でしょう。今の時点では、全く予測できません」と語る。