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2023.10.17 11:00

新規ビジネスの開拓者はカオスであれ。未知の領域を切り拓くビジネスデザイナーの流儀

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持続可能な成長を促すため、新規事業の立ち上げの重要性が増している。そんななか、自社に最適な新規事業のアイデア創出に頭を悩ませるビジネスパーソンは少なくない。では、時代を切り拓くようなビジネスアイデアを発想するためには何が必要なのか。

この疑問に対して「未来視点をもつこと」と「混沌を生み出すこと」だと答える人物がいる。大企業の新規事業・サービス開発に特化したデザインコンサルティング企業 NEWh(ニュー)で取締役兼ビジネスデザイナーを務める小池祐介(以下、小池)だ。その真意について、常に新しい事業を開拓してきた小池の経験から探っていく。

ジレンマを解消すべく、広告事業から価値創造へ活動をシフト

ビジネスデザイナーのミッションは、新規事業のアイデアを発想、具現化する仕組みを構築することである。これまで新規事業開発支援のスペシャリストとして、数々のプロジェクトを成功に導いてきた小池だが、意外にもキャリアのスタートからビジネスデザイナーとして活動してきたわけではない。

「元々、大手総合商社のグループ企業でデジタルマーケティングに関する業務に携わりました。具体的には、リスティング広告やアフィリエイト広告、純広告、メールマーケティングなどの単体ソリューションのプロデュースです。この仕事にはやりがいを感じていましたが、経験を積んでいくうちに、顧客企業に対するデジタルマーケティング全般をプロデュースしたいという思いが強くなっていきました。そこで博報堂グループのデジタルエージェンシーであるスパイスボックスに転職しました」

スパイスボックス入社後は、既存の枠組みにこだわらず、デジタルを軸にさまざまな製品やサービスを世の中に広める活動に従事。充実した日々を送っていた小池は、ここで運命的な出会いを果たす。その相手こそ、後に代表取締役としてNEWhを立ち上げる神谷憲司(以下、神谷)だった。

「デジタルマーケティング全般に携わる仕事に就いたものの、経済停滞期の日本には、広告を通じて積極的に世の中に広めたくなるような、ワクワクできる製品やサービスが少ないというジレンマに陥ってしまった。そんな折に出会ったのが、スパイスボックスでクリエイティブディレクターとして仕事をしていた神谷です。彼も同じような思いを抱えていて、私と同様にすでにある製品、サービスを広めていくのではなく、よりよい世の中をつくっていくため、新しい価値をつくりたいという思いをもっていました。そして、その思いを実現すべく、のちのNEWhにつながるWHITEを立ち上げました」

WHITEの立ち上げに参画した小池は、イノベーションデザイン局長として辣腕を振るい、大企業に特化した新規事業開発支援事業「WHITE SERVICE DESIGN」や、企業のイノベーション創出を支援するSaaSサービス「innovation design compass」などの開発を担当した。

その後、WHITEは業績を順調に伸ばしていく。しかし、事業が軌道に乗れば乗るほど、ある課題が大きくなっていった。

「BTC(ビジネス・テクノロジー・クリエイティブ)のうち、ビジネスとクリエイティブは提供できていたものの、社内実装フェーズにおいて、テクノロジー領域を一体的に提供できないことが大きな課題になってきました。そこで、テクノロジー面で強みを有するサンアスタリスクと組めば、この課題を解決できるだけでなく、これまでにないデザインコンサルティングの新たな形がつくれるのではないかと考えました」

その結果、21年1月、グローバルで展開するデジタルクリエイティブスタジオ、サンアスタリスクの戦略的子会社としてNEWhが誕生した。

第一線で活躍するビジネスデザイナーがカオスであることを重要視する理由

キャリアの変遷からわかるように、小池の行動には「現状に満足し、歩みを止める」ことがない。その姿勢からは、常に自分自身の領域を拡張し続けようという強い意志が感じられる。そのことを伝えると小池は「それは自分に専門性がないからかもしれません」と自嘲した。

「新規事業開発を実現するには、経営戦略、事業戦略、マーケティング、デザイン思考、シナリオプランニング、UI/UXデザイン、Web3、その他の先端テクノロジーなど、新しい領域の知識や構造の大枠を貪欲に理解していくことが重要だと考えています。そこで得たものを組み合わせながら、実際のプロジェクトで使ってみる。そうすることで、私自身はもちろん、NEWh全体のケイパビリティの拡大が期待できる。いまでこそデザイナーという肩書で仕事をしていますが、このような考えに至ったのは、これまでデザインについて専門的な教育を受けてないことが影響しているのかもしれませんね」
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ビジネスデザイナーとして、独自の道を切り開いてきた小池とのインタビューのなかで、特に印象的だったのが「混沌(カオス)」という言葉だ。一般的にビジネスデザイナーに求められるのは、多様なフレームワークを活用して、思考や状況を整理していくことではないだろうか。しかし、小池は「ビジネスデザイナーは敢えてカオスであれ」と話す。

「ビジネスデザインのプロセスにおいて、思考や状況を整理することは当然必要です。ただ整理しきれない部分も大切にするべきということ。なぜなら整理されてないもののなかから、何かしらの答えを導きだそうとすることが、新たなアイデアや可能性の創出につながるからです。それ故、自分の思考やプロジェクトのなかに敢えて混沌をつくっておく。そのためには幅広い知識を吸収し、自分の領域を広げておくことが大切だと考えています」

「領域の拡張」と「カオスであること」に加え、小池が新規事業開発支援を行ううえで重きを置いているのが「未来視点を有すること」だ。

不確実性が増しているVUCA時代。今後、進むべき方向を測りかねている企業は少なくない。「まるで四方が闇に閉ざされているかのような状況下で、進むべき方向を示してくれる羅針盤は、未来を考えることでしか手に入れられない」と小池は熱っぽく語る。

「表面的な未来の姿は、シンクタンクが発行しているレポートなどを読めばわかるでしょう。しかし、新規事業の立ち上げには、世の中を解像度高く理解して、魅力的な未来のストーリーをつくることが必要です。そして、未来についてイキイキと魅力的に語ることは、未来の社会をじっくりと考えて、自分が信じられるストーリーをもっている人にしかできません」

未来視点が必要不可欠だと考えるようになったのは、これまで小池が手掛けてきた取り組みに起因する。NEWhが支援するのは大企業が中心だ。となると必然的に新規事業開発においても一定レベルの規模感が求められる。市場規模を考えなければ顧客起点でデザインを行えばいいが、それではマーケットの規模が限定的になってしまう。そこで経営戦略策定の手法であるシナリオプランニングを事業開発に転用することを思いつく。

「シナリオプランニングでは、考えられる将来のシナリオを複数描き出し、それを企業の戦略策定に活用していきます。それと同様に、新規事業開発のデザインも将来のシナリオを描くことからスタートすることで、大企業のニーズを満たす新規事業開発のデザインが可能になる。具体的に未来を想像することが、新規事業を成功へと導いていけると考えています」

よりよい世の中をつくるために、ナレッジを社会と共有

NEWhの立ち上げは21年。設立からそれほど月日は経っていないが、同社のアプローチに対するニーズは後を経たない。

「例えば、現在、ある大手銀行のWeb3プロジェクトの支援を行っていますが、チームとして満足度の高いアウトプットを創出できているのは間違いありません。おそらく銀行がこうした取り組みを行うのは、業界として初めてのことだと認識しています」

見本となる先行事例がないなかで取り組みを進められるのは、同社の未来視点による判断軸があることにほかならない。

また、23年4月、NEWhが発表したサービス「プロジェクト/ストラテジー・フィット」と「innovation playkit」にも注目したい。前者は、従来の顧客視点の課題を起点とした事業開発検討を進める前に、企業経営が据える事業環境の変化と課題を把握し、新規事業の開発要件を明確にする新規事業開発プロセス。後者は、オンラインによる次世代イノベーション人材育成リスキリングプログラムだが、いずれも、前身となるWHITE創業時からの理念の1つである「よりよい世の中をつくりたい」という思いが色濃く反映されたものとなっている。
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「これまでの支援で得たノウハウは、私たちだけが活用するのではなく、社会に還元するべきだと考えています。『プロジェクト/ストラテジー・フィット』と『innovation playkit』は、比較的手軽に利用できるサービスですが、そこには、我々が培ってきたノウハウが反映されています。これらのサービスを広く利用してもらうことで、世の中がよりよいものになることを期待しています」

最後に今後の展望についてたずねると、「新規事業開発支援を通じて、企業の変革を推進するような取り組みを実現していきたい」と語った。

「革新を後押しできる存在になるには、NEWhとしても領域を広げることが求められます。そのためにも、人材の多様性を高めたい。型にはまったような人ではなく、我々に刺激を与えてくれるような人とともに成長をしていきたいと思っています」

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