便乗値下げの横行
今までは、消費税を納税する義務を負っている人または会社である「課税事業者」の視点でしたが、そもそも消費税の課税事業者ではない、「免税事業者」の影響はどのようなものがあるのでしょう。実際に私のクライアントが取引先から受けた事例を例にお話したいと思います。
上記の様に10月1日からインボイス制度が開始され、インボイスの要件を満たした領収書等を入手しなければ、「仕入税額控除」の対象とならず、消費税は支払った事業者が負担することになります。このインボイスの要件には、前述のインボイスのチェックポイント」で示したように、記載要件を満たす必要があります。
しかし、インボイスを発行できる事業者(適格請求書等発行事業者)の登録がなければ、そもそもインボイスを発行することができないのです。
免税事業者はその名の通り消費税が「免除」されている事業者なので、当然免税事業者が発行する領収書等はインボイスの要件を満たすことはできません。ですので、免税事業者と取引を行う事業者が消費税を負担することになります。
免税事業者が課税事業者になれば、この問題は解決するのですが、全ての免税事業者が課税事業者になるわけにはいきません。課税事業者になれば消費税を納税する義務を負うことになり、消費税の申告書を作成・提出しなければならないからです。
それでは、このような免税事業者はどうしたらよいのでしょうか?免税事業者のままであれば、取引を行う課税事業者が負担することになる消費税額相当分を値引き対応すれば解決できます。
さらに、このような免税事業者との取引の負担を軽減する目的から、免税事業者からの課税仕入れに係る経過措置が設けられ、10月1日からいきなり消費税額全額が差し引くことができないのではなく、段階的に差し引くことができない消費税額が引き上げられることになりました。具体的には、
2023年10月1日~2026年9月30日:2%の負担
2026年10月1日~2029年9月30日:5%の負担
2029年10月1日以降:10%の負担
となります。これにより、免税事業者との取引に係る負担を緩和したのです。免税事業者にとっては値引き額が抑えられるので好ましい経過措置になります。
しかしながら、この経過措置を悪用した事業者が出てきました。この経過措置の影響を加味せず、10月1日から10%の値引きを要求してきたのです。上述の様に10月1日から3年間は2%の負担で済みますので、8%の便乗値下げになります。この様にインボイスの内容を知らないと、いつの間にか不利な契約を締結していることになるので注意が必要です。
取引先からの提示(10%の値下げ)
変更前:3182円(税抜)⇒変更後:2893円(税抜)
正しくは(2%の値下げ)
変更前:3182円(税抜)⇒変更後:3120円(税抜)