人的資本の重要性が再認識され、ますます重要視されるウェルビーイング経営。 従業員のモチベーションやエンゲージメントを高めるべく、組織の環境を整える企業 が増えている。ウェルビーイングの定義にはさまざまな議論があるところだが、その根底に「心身の健康」があるのは疑いがないだろう。
では、心身の健康を保ち、高めるには、どのようなサポートができるのだろうか。1989年の創業以来、企業の福利厚生や保険会社の付帯サービスの一環としての「健康相談」サービスを提供し続けてきたティーペックの代表取締役社長兼 CEO鼠家和彦に話を聞いた。
「当社は、医師や看護師から電話で適切 なアドバイスが受けられるメディカルコンタクトセンターを1989年に開設し 、健康に対する悩みや不安を解消するための『健康・医療サポート』をしてきました。相談だけではなく、約2300人以上の医師・ 医療機関ネットワークも構築しており、セカンドオピニオンや受診の手配もできます。 今では、メンタルヘルス不調者の早期回 復や治療促進を支援するメンタルサポート もしています。また 、企業を対象として、 職場改善サポート、ストレスチェック、ハラスメント防止・コンプライアンスサポートといった『職場改善・健康経営サポート』 も実施しています」
鼠家は13年前に金融業界から転身、コンタクトセンターの改善などに尽力し、サービスの向上を実現してきた。
「傾聴」と「寄り添う」姿勢で利用者の健康をサポート
T-PECは、Total Private Emergency Centerの略である。その名の通り、24時間365日対応のコンタクトセンターで、これまでに約2500万件もの相談を受け、専門家による適切な健康アドバイスや医療機関の手配などをしてきた。現在は医師、看護師、公認心理師などの資格者467人を擁する、業界を代表する健康相談のサービス機関だ。 このコンタクトセンターで活躍する看護師や心理カウンセラーなど専門家による的確なアドバイスこそが、同社が誇る最大の 強みである。また、「こころ」と「からだ」 はそれぞれ独立したものではなく、体のなかで影響し合っているため、双方の専門家が情報を共有しながら利用者をサポートしている。
看護師採用では、5年以上の臨床経験という高いハードルが設けられている。さらに、同社のサービスで特筆すべきところは、これらのスタッフは専門知識を備えているだけでなく、利用者に対し「傾聴」と「寄り添う」という姿勢を貫き、高い顧客満足度を獲得してきた点にある。しかし、看護師が誰しもこうしたスキルを備えているかというと、必ずしもそうとは言い切れない。
「当社では200時間に及ぶ研修を行い、 必要な専門知識、傾聴と寄り添う姿勢を身につけます。また、コンタクトセンターで脈々と受け継がれてきた利用者に寄り添うという文化が、スタッフの接遇力を育んでいます。加えて、これまでの三十数年の歴史のなかで、全国の医療機関や医師の方々と他の追随を許さないネットワークを築いてきましたので、各分野の著名な医師による講義を行い、看護師や心理カウンセラーの専門性を高める研修も行っています。
また、フレキシブルな働き方ができるため、臨床現場と当社の両方で働くWワークの方をはじめ、子育て期間中は当社で働いて、臨床現場に復帰した方などもいます」
T-PECは、健康相談の利用者のみならず、医療関係者の新しい雇用の場、教育の場としても貢献しているのだ。
2,500万件のデータが生み出す新しい健康インフラ
長年にわたる健康相談サービスで培ってきた知見と豊富な人材により、健康相談はもちろん、サービス利用者と医療機関をつないできた T-PEC だが、いま新た なステージを迎えている。 ひとつはデジタルの活用である。これまで優れた専門家の対応力によってサポートを行ってきたが、そのなかには、インフルエンザ、花粉症、熱中症など、季節によって数が増えるが、質問内容にそれほど大きな違いがない問い合わせがある。こういった悩みに迅速に応えるべく、約2500万件の相談データを活用した「チャットボット健康相談」をスタートさせた。
「いつでも気軽に健康について調べられるサービスです。使う場所を選ばず、スピーディに利用できます。このチャットボットによる自動回答は、医療辞書からではなく、これまで提供してきたアドバイスのデータを活用して開発しました。つまり、当社の蓄積された膨大な健康相談データがあって初めて精度の高いデジタルサービス が提供できるのです」
もちろん、さらに踏み込んだ内容については、これまで提供してきた医師、看護師や心理カウンセラーなどの専門家の相談員に聞くことができる。症状に応じてサービスを使い分けられるようになったわけだが、さらに、いままで散らばっていた付帯サービスをひとつに集約したサービス「p l u s B a t o n(プラスバトン)」も公開している。この活用が進めば、利用者自身が各サービスの利用履歴を閲覧できるようになる。そのメリットを鼠家は次のように解説する。
「将来的には、履歴情報を親から子どもへと受け継げるようにすることも視野に入れています。これが実現すれば、遺伝性疾患の悩みをもつ人の大きな支えにもなると考えています」
もうひとつは、8月に新たに制定したCI(コーポレートアイデンティティ)だ。これまで、企業や保険会社へOEM(相手先ブランド製造)としてサービスを提供してきた T-PEC。 主な取引先には誰しもが知る大企業や保険会社などが名を連ねているが、実際にサービスを利用する人の多くは、T-PECの名前を知ることはなかった。 しかし、これからは黒子に徹するだけでな く表舞台にも立って、サービスを提供していく方針を打ち出した。そのスタートとして、健やかに生きるためのヒントや役立つ情報を発信するヘルスリテラシーWebメディア 「つながるティーペック」をリリースしている。
「当社は自他ともに認める質の高いサービスを提供してきましたが、あくまで提携先の『黒子』ですから、その名前は正直あまり知られていません。これからは、T-PECが 高品質の証しになるよう利用者への誓いと『日本の新しい健康インフラになる』というビジョンの実現に向けて、当社のネームバリューを高めていきたい」
三十数年にわたって築いてきたコンタクトセンター、業界唯一無二の医師・医療機関ネットワーク、蓄積してきた健康相談情報、この3つの財産を生かしながら、T-PECはウェルビーイングの未来を描き続けている。
ねずみや・かずひこ◎ティー ペック代表取締役社長兼CEO。 金融機関にて、営業責任者を 務めた後、人事部を経て、企 画部門とマーケティング部門のマネジャーを歴任 。2010年にティーペック入社、全社のサービス品質管理部の責任者 としてコンタクトセンターの運営全般にかかわる。サービス業務本部副本部長、執行役員商品企画本部長、常務執行役員 営業本部長を務めた後 、20年11月より現職 。