政治

2023.10.11 14:15

日中関係と「一滴の水」

2001年の2月下旬だった。柔和で大柄な中国政府関係者が長崎を訪れていた。工場見学や日中友好催事などを精力的にこなした福建省の省長で、名を習近平といった。その3年後、長崎の中国領事館設立20周年記念イベントでは、眉太く、姿勢の良い中国人が流暢な日本語で主賓スピーチをこなした。若き日に、中国大使館員として領事館開設作業に奔走した人物で、名を王毅といった。

現下の日中関係は最悪である。先立つ十数年間も両国の関係は冷えていたが、米中摩擦の激化が、巨大な黒雲を垂れこめさせた。さらに在中国日本人の拘束は、日本サイドの不安感を一段と増大させた。そして原発処理水の海洋放出問題である。

20年前の習近平の笑顔や王毅の地声に触れた私は、同い年の二人にある種の親近感を抱いたものだが、それも今は昔なのだろうか。

日本の対中認識は分かれている。中国とは絶縁すべしという言説と、とにかく中国とはうまく折り合っていかなければならないという考え方だ。

日本人の対中感情が圧倒的に悪いなか、主流は前者であるように感じる。

要は、力を増す一方で米国と深刻な対立関係に入った中国は、その権威主義的支配をアジア、西太平洋に打ち立てようとしており、自由主義、民主主義、資本主義の日本とは相いれない。中国国内の経済低迷や社会の矛盾に対する不満の矛先を、日本に向けている。科学を政治思想で意図的に歪曲させるため、話がかみ合わない。国際的なルールが通用せず日本企業や日本人のリスクが極めて高い。反日教育をやめる気配もない。

したがって、いかに中国への経済依存度が高くても、個別企業の利益や短期的な成長のために、中国と妥協などすべきではない、という主張である。

他方で、産業界には、現実問題として中国とのパイプを切れるものではない、中国との関係悪化で結局、損をするのは日本だ、という見方が多い。中国進出の日本企業は1万3000社ほどもあるし、日本の貿易に占める中国の比重は23%と対米のほぼ2倍にもなる。この事実を前にしては、感情論では何も解決しない、と見る。

さらに、日本にも落ち度があるとする向きもある。30年以上中国ビジネスに携わる企業の幹部は、「あれじゃ、中国も怒りますよ」とため息をつく。「G7広島サミットです。インドを呼んでいながら中国は呼ばない。面子を重視する中国にとっては侮辱以外の何物でもない」。それまでも、外交の世界で中国は意図的に「ハブられて」きたが、そのお先棒を日本が担いでいるように見える、しかもG7では欠席裁判で中国が批判された、というのだ。
次ページ > 国家レベルと個人レベルの日中関係は別である

文=川村雄介

タグ:

連載

川村雄介の飛耳長目

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事