政治

2023.10.11 14:15

日中関係と「一滴の水」

Forbes JAPAN編集部
「中国は、G7で世界中に恥をかかされた。日本は米国に追従するだけで、日中関係改善なんて望んでいないと思われている。処理水問題への大反発は起こるべくして起こったんです」

日本人は、古代からの長い交流の歴史ゆえ、かの国を理解しようと努める。理解できると思い込む。だが、近代の日中関係を冷静に見直してみると、そう簡単ではない。

1894年の日清戦争以降、日本は強烈な反日運動に見舞われ、やがて日中戦争に至る。あの50年間の日中はほぼ戦争状態だった。

戦後日本は自由主義陣営として共産中国とは相いれなかった。中国の改革開放後、両国は蜜月といえる時期を共有したが、それも江沢民の反日姿勢で暗転した。その後は、靖国問題が毎年のように蒸し返され、尖閣、対日禁輸、反日デモ、処理水に至っている。要は130年の近代日中の歴史のなかで、良好な期間は10年ほどしかなかったのである。

しかも、両国の国のカタチはまったく異なる。受け継いできた歴史の記憶も違う。少なくとも、国家レベルでは、政治・思想や価値観を共有しようなどと考えないことだ。短期間に相手を理解しようと思わず、異世界と位置付けて、白々としているが大人の関係を維持するしかない。

ただし、個人レベルは別である。幸い、信頼し合える日中の個人同士の人間関係は数多い。この草の根を絶やさないようにしたい。倦あぐむことなく、乾いた砂漠に一滴一滴でも水を注いでいく。やがていつの日か、乾いた関係を、潤いをもったつながりに変えていきたいものだ。その心構えは「百年河清を俟つ」ではない。「百川海に学んで海に至る」である。幾多の違った河川も広大な海に学びそこに流れ込めば、より洗練された共存に至るとの含意である。

川村雄介◎一般社団法人グロ ーカル政策研究所代表理事。 1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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