人間はライオンから「百獣の王」の座を奪うかもしれない

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南アフリカの哺乳類にとって、ライオンを含むどの捕食動物よりも脅威となっているのは人間であり、動物の個体数密度や採餌能力に大きな影響を与え、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の発症率を高めている可能性もあるという研究結果が発表された。

10月5日、Current Biology誌に公開されたレポートでは、南アフリカのクルーガー国立公園に住む動物たちは、ライオンの鳴き声や銃声、犬の吠え声などといった狩猟の音よりも、人間の声をはるかに怖がっていると発表としている。

研究チームによると、動物たちが水飲み場を放棄して逃げ出す割合は、ライオンの鳴き声や狩猟の音を聞いたときよりも、人間の声を聞いたときの方が2倍以上高い。そして研究対象となった種のうち95%は、ライオンの声よりも人間の声に反応したときの方が逃げ出す頻度が高く、より短時間で水飲み場を放棄したことが明らかになった。

ライオンは長年にわたり最上位の捕食者「百獣の王」であると考えられてきた。しかし、このような動物たちの人間の声に対する反応は、人間が「超捕食者」になった証拠かもしれないと研究チームは分析している。

録音されたライオンの声は、うなったり怒鳴ったりしているが、ライオン同士の会話を模倣した。人間の声は、英語、ツォンガ語、アフリカーンス語、北ソト語という、現地で最も多く話されている言語による会話の断片であり、ラジオまたはテレビ番組からとった。

研究チームは、ゾウやライオン、アフリカスイギュウ、カバ、キリン、ハイエナ、シマウマ、ヒョウ、イボイノシシなど、19種類の哺乳類が示した反応を調べた。中でもゾウ、サイ、ハイエナ、インパラ、イボイノシシおよびウシ科のクーズーが、ライオンよりも人間を顕著に恐れる反応を示したという。

「サバンナに住む哺乳類群集全体におよぶ恐怖の広がりは、人間が環境に与える影響を如実に示す証拠だと思います」と主著者のリアナ・Y・ザネットは声明で語った。「動物たちは人間を死ぬほど怖がっています。ほかのどの捕食者よりも」

世界中の野生生物が人間を「超捕食者」として怖がっているという主張を裏づける研究は、増えている。小型から中型の肉食動物が人間に抱く恐怖は、世界的により致死的で恐ろしいとされる大型の肉食動物に対する恐怖を大きく上回る。2016年、Behavioral Ecology誌に掲載された研究は、そう報告した。

また、6月にCommunications Biology誌に掲載された研究結果では、録音された人間の声をアナグマに聞かせたところ、アナグマが餌を探し、食べ、注意を払う能力が、イヌやクマ、オオカミなどの鳴き声を聞かせた時よりもはるかに低下したこと。人間は、どの捕食動物よりも多くの獲物を殺し、人間の動物コレクターは、地球上の脊椎動物の3分の1以上を捕獲。他の捕食動物より、最大300倍多くの動物を犠牲にしていると発表している。
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翻訳=高橋信夫

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