欧州

2023.10.09 09:30

珍しい「装甲歩兵戦闘車」がウクライナに 供与国は不明

ベルギー軍が運用していた装甲歩兵戦闘車(M.J.J. de Vaan / Shutterstock.com)

ベルギー軍が運用していた装甲歩兵戦闘車(M.J.J. de Vaan / Shutterstock.com)

どこかの国が、M113装甲兵員輸送車(APC)をベースにした歩兵戦闘車をウクライナに供与した。「装甲歩兵戦闘車(AIFV)」と呼ばれるこの車両は8月以降、前線で撮影された映像に少なくとも2回登場。供与を発表した国はないが、オランダとベルギーに注目が集まっている。

米企業FMCが手がけたAIFVは歴史的に珍しい車両だ。米国ではM2ブラッドレー歩兵戦闘車(IFV)との競争に敗れたが、欧州で採用され、後に再輸出市場に出回った。

重量が27トンあり、乗員と戦闘員合わせて10人乗り込めるM2は、世界最高峰の性能を誇るIFVとなった。だが、昼夜使える照準装置や、強力なブッシュマスター25mm機関砲、TOW対戦車ミサイル2連装発射機を備えるM2は、1両あたり約400万ドル(約6億円)と高価だ。

M2ほどの性能を持つ車両は米陸軍が価格面で難色を示すかもしれないと予想したFMCは、1960年代後半から70年代前半にかけてより軽量で安価なIFVを開発。M113の車体と車台をベースとし、エリコン社製の25mm機関砲を搭載した1人乗り砲塔を追加して、価格をM2の10分の1に抑えた。ただし性能はそれ相応で、装甲を追加したとしても防御力はM2に及ばない。

米軍は、価格より性能の方が重要だと判断し、AIFVではなくM2を採用した。だがFMCは最終的に、AIFVの買い手を見つけた。オランダとベルギーだ。

重量14トン、最大10人が乗り込めるAIFVは、20~30年にわたってオランダ軍とベルギー軍の主力IFVだった。ドイツが設計したレオパルト戦車とともに配備され、旧ソ連との戦争に備えて訓練した。また、平和維持部隊で存在感を示し、アフガニスタンでも戦った。

1990年代から2000年代初めにかけて、オランダはAIFV600両を、ベルギーはAIFV500両を、新世代の装輪式IFVに替えた。意外にも、中古市場での引き合いは多く、バーレーンやチリ、エジプト、ヨルダン、レバノンなどが購入した。

そして8月には、元々ベルギーのものだったと思われるAIFVがウクライナに現れた。正確な出所は明らかにされていない。

オランダが昨年春、ウクライナに約束した砲塔のないYPR-765装甲兵員輸送車約200両の中に、AIFVをまぜた可能性はある。そのために、ベルギーがかつて保有していたAIFVを入手したのかもしれない。オランダは、ウクライナに供与するレオパルト戦車を確保する際にも、欧州中から中古車両を買い集めていた。

供与国がどこだったのかは分からない。ただ、ウクライナ側にとってはどうでもよいことだろう。ウクライナ軍は、戦車や戦闘機よりも、IFVを必要としている。それも大量に。入手可能なIFVがあれば、その出所がどこであっても大歓迎だろう。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子・編集=遠藤宗生

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