今回、VCのドーガン・ベータや丸井グループなど13社が投資家として名を連ねているが、コテンのCEOである深井龍之介は、出資を仰ぐ際に型破りな投資交渉を行なった。それは、投資家に対して従来の投資姿勢に異議を唱えるものでもあった。
データベースをあえてサービス化しない
コテンの事業は主に2つ。1つは前述のネットラジオの配信で、もう1つは世界史のデータベース作成だ。
スタートアップとして売り上げを立てていくためには、例えば作成したデータベースをもとに、経営判断に活用できる歴史を用いたソフトウェアや学校の教材として使えるコンテンツをつくることを考えそうだ。投資家に出資判断を仰ぐ際にも、そのような事業内容や計画を提示するほうが有利だろう。
しかし、深井はそこに問題意識を抱く。
「いまお金が集まるのは、5年後10年後にイグジットして投資家が儲かる可能性の高い企業です。もちろんそうした企業やサービスに資金が投入されることは否定しません。
一方で、儲かるかどうかの予測がつかず、社会的なインパクトが出るまでに、数十年や数百年という時間がかかるかもしれないものには投資が集まらないんです。もしそのせいで、解決すべき社会問題に時間を割けていないとしたら本末転倒ですよね」
実際に投資を決めたドーガン・ベータ取締役パートナーの渡辺麗斗は「VCもファンドを作る際に、1割だけは儲かるかは見えないけど重要なことに投資するということを、LPに対して説明して運用していく形があっても良いのでは」と考える。
深井らが主力事業としてつくり込んでいる世界史のデータベースは、まさに、いつ、どのような形で収益を生むかはわからない。
しかし、例えば東日本大震災や新型コロナウイルスといった誰もが予想していなかったことや、新たな地域で貧富の差が発生したとき、世界史のデータベースを利用して、歴史に学ぶことで対応策を考えることができる。だからこそ、データベースそのものには価値があり、それを現時点で特定のターゲットに絞ったサービスにするのはナンセンス。これが深井の主張だ。
「仮に経営陣の意思決定に必要な歴史のデータを出しますというサービスをつくるとすると、インターフェースが全部経営者向けになっていきます。でも、僕たちは、地図情報や過去の人間の行動なども含めた総合的なデータベースをつくろうとしている。人類という大きな単位に向けて、必要な情報を蓄積していっているのです」
コテンでは、教科書で学ぶような世界史の知識だけではなく、例えば大器晩成型の人が世界のどの地域から生まれやすく、何歳ぐらいから才能を開花させているのか、そのようなデータも収集している。
そして、そのために深井は、投資家に対して今回のようなユニークな交渉を行ったのだという。