今回は、企業版ふるさと納税額の寄付受け入れ額で関東1、2位を誇る茨城県境町に着目。2014年の町長就任直後から、自らが「町のマーケター」として旗を振り、財政改革を手がけてきた橋本正裕町長に話を聞いた。
財政破綻寸前を打破。糸口は「ふるさと納税」
クレイ勇輝(以下、クレイ):今回は、茨城県境町に来ています。人口約2万4000人、町の税収は35億円という規模ですが、企業版ふるさと納税の受け入れ金額のランキングでは、2016年度から2021年度まで全国トップ10、関東でも常に1位、2位の寄付を受ける自治体として注目を集めています。個人のふるさと納税でも令和4年度は寄付額が59億円を超えており、6年連続で関東1位、茨城県内では8年連続1位で、全国でも16位という順位です。
なぜそれほど集められるのか。その秘密を橋本町長にお伺いしたいと思います。まず、ふるさと納税を導入したきっかけは何だったのでしょうか?
橋本正裕(以下、橋本):私が町長に就任した2014年3月当時、この町には約172億円の借金があり、人口減少、高齢化も進む財政破綻寸前の状況でした。立て直し策として目をつけたのが、2008年度から始まったふるさと納税制度の活用だったんです。
それで、ふるさと納税で寄付を多く受けている自治体はどうやって集めているのかを自分で調べました。
クレイ:ふるさと納税制度を利用して財政難からの脱却の糸口をつかもうとされたんですね。
橋本:そうです。税金を上げることを考えなければならないほど瀬戸際の状況でしたから。
注目したのは、岐阜県の各務原市です。2012年度に79万円だったのが翌年は1億2498万円に跳ね上がっていました。すぐ視察に行ってお話を伺ったところ、各務原市は現市長である浅野市長に代わられ、「ふるさと納税サイト」に載せたりクレジットカード決済やコンビニ収納を導入していたんです。
クレイ:町長自ら各務原市の変化に気付いたのですか?
橋本:そうです。全国1741自治体すべて調べました。いま自治体に求められるのはマーケティングやマネジメントですから。コンサルタントに頼る所もあるようですが、僕は全て自分で見ます。
それで、各務原に行って仕組みを教えていただいたのが2014年8月。戻ってすぐに「ふるさと納税推進室」を作って、専任の職員を1人置きました。
クレイ:専門の方を新しく採用されたのですか?
橋本:いえ、役場の職員です。基本的には僕が指示を出して、それをこなしてもらう方法で進めました。他に私が意識したのは、返礼品を多く揃えたりメディアを利用したり、それまでやらなかったことをどんどんやるようにしました。
そしたら前年度6万5000円だった寄付が、僕の就任1年目で3257万円に増え、2022年度は59億5348万円になりました。
クレイ:それだけ結果が出ると、かなりの手ごたえでしょうね。返礼品を見てみると、境町産の米や紅はるかを使った干し芋、ビーズソファの「Yogibo(ヨギボー)」まであって、“攻めてる自治体”とも呼ばれていますよね。