フランスの首都パリでは2023年4月、電動キックボードレンタルサービスの是非を問う住民投票が実施され、その結果として、レンタル電動キックボードの禁止が決定された。パリ市民の意見はほぼ一致し、9月1日からのレンタル電動キックボードの全面禁止を支持した割合は89%に上った。
そして、9月1日を間近に控えた8月30日から31日には、回収トラックがパリを走り回り、路上に放置された無残なレンタル電動キックボードを回収した。
この回収トラックは、パリでレンタルサービスを展開してきた米カリフォルニアのLime(ライム)、オランダ・アムステルダムのDott(ドット)、ドイツ・ベルリンのTier(ティア)という3社が派遣したものだ。この3社は、特定のポートを持たないフリー・フローティング型電動キックボード(FFES)を、パリで最後まで運営していた。
回収トラックはモンマルトル地区、マレ地区、ピガール、シャトー・ルージュ、サンジェルマンといったおしゃれな地区と、そうとはいえない地区を回って、計1万5000台を路上から撤去した。
レンタル電動キックボードは、この日を境に、光の都パリから消えた。ヘルメットもかぶらず、交通ルールなどそっちのけで、パリの歩道を駆け抜け、転んだり、ぶつかって歩行者を転倒させたりする厚かましい人たちの姿を目にすることは、今後はかなり減るだろう。
ちょっとした距離を移動できる電動キックボードを、フランス人は「速足」という意味を込めて「トロッティネット(trottinette)」と呼ぶ。自家用であればこれからもトロッティネットに乗れるので、レンタルサービスを禁止したところで、パリ在住の利用者は、自家用を購入するようになるだけだという意見もある。しかし、パリ市民以外が一時的に利用したり、観光客が利用したりする市場は、今回で閉ざされた。
スマートフォンアプリを使用した電動キックボードのシェアリングサービスは、パリで2018年から導入されてきた(こうしたキックボードが現れ始めたのはその数年前からだった)。そして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が拡大すると、パリ市民も例に漏れず、公共交通機関を使わなくなり、電動キックボードの利用者が飛躍的に増加した。
しかし、2019年にパリで電動キックボードが絡んだ初の死亡事故が発生したのをきっかけに、こうした類いのマイクロモビリティを巡る議論がフランス全土で激化した。民泊プラットフォームAirbnbに対する規制と同じように、政治家の意見も対立した。