栗俣:なるほど。人との関わりは刹那的で有限であり、だからこそ美しいというのは示唆的でもありますね。
布川:初期のほう、主人公の清麿がいじめられて不登校になるあたりも印象に残っています。自分自身がいじめられていたというわけではないのですが、社会から迫害されたり、自分がもっているパーソナリティを否定されて、人と関わるのが面倒くさくなってしまうのは誰でもある経験だと思います。清麿は魔物の子と関わる中で、人とのつながりを避けないようになる。関わりを受け入れながら清麿が変わっていくシーンは、『ガッシュ!!』の原点でもあると思っています。
栗俣:人との関わり、つながりが人の行動も変容させるのですね。
布川:人間と魔物が、パートナーを王にするという一つの目的へ向かって走っていく。1000年前の魔物と戦うなかで今の魔物が勝っていくことができたのも、「絆」があるかないかの差分の描写なのだと思います。1000年前の魔物パートナーの心が操作されていて、意思がない人間であるという設定だったことも、今となっては意味がある設定なのだなと思えます。
人間は感情的な生き物であり、論理だけで動くわけではありません。目的思考とロジックだけで人が動き、課題を解決していければ、世界中のコンサルティングファームが最高の会社を難なくつくれているでしょう。しかし現実はそうなっていません。若いころのス ティーブ・ジョブズは、あまりに発想が未来を先取りしすぎていました。「ジョブズは何を言っているんだ」と顔をしかめる人がいる一方、「なんだか面白そうだからジョブズについていってみよう」と惹きつけられる人もいる。
Amazonの構想が発表された当時「いやいや、そんなビジネスは絶対うまくいくわけないよ」とバカにしていた人もいたでしょうが、ジェフ・ベゾスは仲間を巻きこんでAmazonを今日の世界的な企業へと発展させました。人間はとても感情的な生き物であり、ミッションが人を、世界を変えると僕は確信しています。ロジック一辺倒で突き進んだところでミッションを達成できるわけではない。この真理はスタートアップの歴史が鮮やかに物語っています。
大きな世界の実現には絆や感情、人の化学変化がすごく大事で、『ガッシュ!!』というマンガは手を変え品を変え、何回も「心のあるやつらが強いんだ」と言い続けてくれる。「心やパートナーに対する思い、誰かを思いやる気持ちって大事だな」と思わせてくれる作品だと思います。