北米

2023.10.05 09:30

言論の自由が尊重されるアメリカで新聞社に家宅捜索が入って大騒動に

令状なしの捜索は合法か

言論の自由に対してはとてもセンシティブなアメリカの司法機関では、新聞社の家宅捜索を認めることは極めて珍しい。

裁判所も、憲法侵害事案となると被害者側にかなり軍配をあげる傾向であり、近年では2019年にサンフランシスコ警察がインディペンデントのジャーナリストブライアン・カーモディ氏を捜索したことも、結果、サンフランシスコ市が同氏に賠償金を払うことになった。

言論の自由の憲法論に詳しいアメリカン・エンタープライズ・インスティテュートのクレイ・カルバート氏によると、アメリカでこのようなことが起こる場合、ジャーナリストのコンピューターを抑えることによって、他の犯罪を把握しようとする傾向が多いとされる。

筆者の住むラスベガスでも、行政職員の不法行為(ハラスメントや横領)を暴いたレポーターが、この行政幹部との面談の際に殺され、その幹部が逮捕されたという事件があった。

しかし目撃情報がないために、最初は新聞社も警察に協力していたが、警察が新聞記者や新聞社のパソコンや携帯を預からせてほしいと申し出たところ、一転して警察と新聞社が対立するようになった。

家宅捜索令状がなくても、やむを得ない(誘拐や立てこもりなど)場合には捜索に至るケースは全米で散見される。とはいえ、身体の危険を伴うような犯罪でなく、緊急性に乏しい場合、その令状なしの捜索が合法と言えるのかどうかについては疑問の声が多い。

前述のレストランでの政治家のキャンペーンイベントには、新聞社を捜索した警察署長も呼ばれており、彼も同席したなかで「叩きだし」が目撃されていて、警察署が忖度してオーナー側についたという見方がされている。

仮にレストランのオーナーと新聞社のバトルが社会的意味の低い小競り合いだったとしても、仲間意識や忖度が前面に出てしまい、公正と慎重さを欠いた警察の対応だったというところで世論は固まってきている。

現在、新聞社とレストランのオーナーは、ともに名誉棄損と違法な個人情報の取得をめぐって、互いに訴訟を検討しているという。

20世紀には時おり見た、小さな市町村での警察の権威主義や横行ぶりがスポットライトを浴びているような態様になっているが、この新聞社が情報の裏をあまり取れず温めていたり、あるいは保留にしていたりするネタが、これから暴かれるのではないかと、地元の政治家や警察は戦々恐々としている。

文=長野慶太

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