湧き上がる感情の中、消えゆく劇場を写した
取材を重ねるなかで、2021年5月20日に広島第一劇場が閉館することに決まった。松田さんは、最終営業日の前日から密着し、踊り子と観客、そして46年の歴史に幕を閉じる劇場を撮り続けた。当日は68の客席はすべて埋まり、立ち見の客がひしめき合っていた。「こんなに終わってほしくないと思っている人がいるのに、終わっちゃうんだ」。カメラを構える松田さんもまた、同じことを願っていた。
ファンではなくフォトグラファーとして、ストリップの取材に取り組んできた松田さん。冷静に、客観的に被写体と向き合ってきた。でも、この日だけは違った。ステージ上で涙をこぼす踊り子、ショーを盛り上げようと観客が舞台脇から放つ白いリボン――。一つの文化が終りゆく瞬間を切り取りながら、感情が湧き上がってくるのを感じていた。
松田さんはこの日を振り返って言う。「ファインダーをのぞきながら、あんなに感情が湧き上がってくる現場はなかなかないと思います。本当に撮りたい写真を撮ることができました。あの経験は、今も私の背中を押してくれています」
撮影=松田優
2021年当時は、報道人として記録したい一心で撮影し、作品を展示することは頭になかった。だが、複数の新聞社などが参加した合同写真展で踊り子の写真を展示したところ、反響があった。「報道写真としてではなく、作品として見てもらえるんだ」と意識が変わり、写真展の開催に踏み切った。
ストリップ取材を通して見つけたテーマ
写真展「その夜の踊り子」は2023年2~3月に、東京で先行して開かれた。数千人が訪れ、2時間以上かけて見てくれた人や、仕事帰りに毎日寄ってくれた人もいた。アンケートで「ストリップ劇場に行ったことがありますか」と問うと、4割が「いいえ」と答えたというが、写真展を訪れた足でそのまま劇場に向かってくれた人もいた。撮影に協力してくれた踊り子も訪れ、写真展の開催を喜んでいた。
「ストリップ劇場に対しては、近寄りがたいとか怖いという世間のイメージはあると思います。自分の写真を通してイメージをくつがえしたいとか流行らせたいとか、そんな大それたことは言えないけれど、こういう世界もあるんだと知ってもらえたら嬉しいです」。あくまで控えめに、松田さんはそう願っている。