欧州

2023.10.02

EUの研究プログラムに復帰するために英国が支払う代償

Getty Images

2020年の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)のために2年半以上締め出されていた英国が、EUの主要な研究・イノベーションプログラムであるホライズン・ヨーロッパとコペルニクスに復帰することが先月、正式に決まった。

これにより、英国の科学者はEUの研究助成金やネットワークを再び完全に利用できるようになる。権威ある欧州研究会議(ERC)の助成金受賞者が英国を拠点とする場合、助成金を受けるために海外に移住しなければならないという悪夢のようなシナリオに終止符が打たれる。

だが、英国は参加のために年間約26億ユーロ(約4100億円)を支払うことに同意するなど、この協定には代償がともなう。これは相当な額だが、同国が影響力を取り戻すために支払わなければならない金額と言えるだろう。これまで英国の大学や企業は、自国が投入する金額をはるかに上回る資金をEUの科学プログラムから獲得してきた。

今回の決定により、英国は来年1月以降、公募や作業プログラムを含め、ホライズン・ヨーロッパに全面的に参加できるようになる。今年の残りの期間も参加できるが、EUからの助成金ではなく、自国の一時的な資金に頼らざるを得ない。

しかし、英国の科学者が獲得した助成金が同国の出資金を大幅に(16%以上)下回る場合、英国に補償されるよう自動的に補正されるという譲歩もある。

強力な研究基盤を持つ英国は、来年から失地回復を急ぐことが予想される。ところが、この先にはまだ大きな不確定要素がある。

最も注目すべきは、ホライズン・ヨーロッパと結び付いたEUの原子力研究プログラムを進める欧州原子力共同体ユーラトム(EURATOM)には英国は再加盟しないことだ。つまり、英国はフランスに建設中の国際熱核融合実験炉イーター(ITER)から締め出されたままということになる。

その代わりに英国は「最大6億5000万ポンド(約1200億円)」の公的資金を背景に、独自の国内核融合戦略を追求することになる。しかし、欧州がインド、日本、中国、ロシア、韓国といった世界的なパートナーと協力しているイーターからの脱退は、この重要な新興分野における英国の影響力に打撃を与えることになりかねない。

ここにはブレグジットの緊張感が凝縮されている。英国が独自の道を切り開くことができるようになった一方で、欧州の重要な協力構想から外れることによって、世界をけん引してきた英国の科学が徐々に衰退していく危険性もある。

英国はようやくホライズン・ヨーロッパへの参加権を取り戻した。だが、イーターへの参加拒否が示すように、重要な橋はすでにその過程で焼かれてしまった。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事