経済・社会

2023.09.30 11:30

北朝鮮のボロボロ航空戦力、ロシアが助けてくれても〈焼け石に水〉

Photo by Gov of Khabarovsk Reg/M. Degtyaryov/Anadolu Agency via Getty Images

これに対し、正恩氏が欲しいのは、スホイ57のような最新鋭戦闘機だろうが、ロシアもそこまで寛容ではないだろう。ロシアは過去、中国にライセンス生産を認めたスホイ戦闘機のリバースエンジニアリングを巡ってもめた過去も持つ。弾薬と異なり、目立ち過ぎる戦闘機の輸出そのものも、ロシアにとって負担になる。専門家たちが一番ありうるシナリオとして予想しているのが、北朝鮮の老朽化した「最新鋭戦闘機」ミグ29の部品と航空燃料の供給だ。
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韓国国防研究院で北朝鮮軍事を研究した金振武博士によれば、北朝鮮は1989年、計20機のミグ29をライセンス生産した。その後、3機が墜落し、現在は17機を保有しているが、部品不足に悩まされ、稼働率が著しく落ちている。燃料不足も深刻で、日米韓では通常、200~250時間程度とされる年間の飛行訓練時間が、北朝鮮は20時間程度しか確保できない状態だという。ロシア訪問中の正恩氏の笑顔を見る限り、こうした苦境を解決する一定のメドがついたようだ。

ただ、ミグ29がすべて稼働できても軍事的には大きな意味がなさそうだ。航空総隊司令官を務めた武藤茂樹元空将は「ミグ29は第3世代戦闘機。空対空ミサイルを発射しても、目標に命中するまで誘導を続ける必要があります。第4世代機の韓国軍のF15やF16はミサイルを撃ちっぱなしにできるうえ機動性も高く、第5世代機のF35に至ってはミグ29のレーダーで探知することも難しいので、勝負にならないでしょう」と語る。

武藤氏によれば、北朝鮮全体を守る「全般防空」を試みる場合、拠点ごとに警戒監視レーダーと地対空ミサイルを配備し、その外周を戦闘機で守るという。ただ、ミグ29の数が少なすぎる。「約20機では、1個飛行隊程度です。せいぜい平壌を守るくらいでしょうが、いずれにしても米韓連合軍には太刀打ちできないでしょう」
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このため、韓国などでは、北朝鮮が航空機を目標に突っ込ませる「特攻機」として使うのではないかという指摘が出ている。武藤氏によれば、年間飛行訓練時間が20時間程度では「離着陸がせいぜい」だという。朝鮮中央通信は28日、憲法に「核兵器の発展を高度化する」という内容を盛り込む修正を行ったと報じた。核兵器以外に頼るものがない北朝鮮の実情を浮き彫りにした。ロシアを訪問したときに見せた金正恩氏の笑顔は、北朝鮮にとっての「最新鋭機」を飛ばすことで政治的威信を守ったという安堵感か、あるいは、特攻機による作戦のメドがついたという喜びから出たものなのかもしれない。

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文=牧野愛博

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