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2023.10.02 17:30

契約解除から生まれた 「虫の目」と「鳥の目」

Forbes JAPAN編集部
03年、デロイト トーマツ コンサルティング日本事務所がアビームコンサルティングとしてスピンアウト。日本の総合商社を担当していた山田も籍を移した。

約50人のチームを率いて引き続き商社の案件を手がけたが、5年目に最大の挫折を味わう。国内外グループ経営基盤導入プロジェクトを進めていたが、顧客から「システム導入をするだけならSIerにお願いする」と契約を切られたのだ。

チームは解散が決まった。しかし山田は当時の社長に直訴して15人を残し、顧客が実現したいことについて議論を始めた。残したのは、それぞれ専門領域が異なるメンバー。領域を超え、それぞれの専門性を持ち寄って議論することで、「自分に与えられた仕事さえすればいい」と近視眼になっていた意識の壁を取り払おうとしたのだ。

「1カ月、徹底的に議論し、その結果をもとにデモ環境をつくってもっていったら、『私たちが求めていた価値はこれ』と評価をいただき、再契約に至りました」

人は現場に近いほど「虫の目」になる。しかし、山田は領域を超えて交わらせることで一人ひとりの視野を広げ、チームとしても「鳥の目」を獲得したのだ。

日本やアジア発のコンサルティングファームとして価値提供する使命をもって社長に就任した山田。その考えを社員にどのように伝えたのかと問うと、「言葉より、具体的な施策で示した」と実務家らしい答えが返ってきた。その施策のひとつが、今年4月に新設したインダストリアル・プラットフォーム・ユニットだ。アビームは産業別組織体制だが、その垣根を越えて人を集め、クロス・インダストリーでプラットフォーム構築を目指す。この手法は、山田が総合商社案件で新たな価値を生み出したときと重なる。

「企業や社会の変革に貢献できたという結果が出るのは先です。結果が出ないと仕事は楽しくない。CEOの職務を楽しめるようになるまで、今は生みの苦しみの時期かな」


やまだ・たかひろ◎1970年、徳島県生まれ。92年に東北大学文学部を卒業後、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)入社。2003年アビームコンサルティング入社。16年取締役、20年代表取締役副社長を経て、23年4月より現職。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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