2023.09.29 07:45

ロールス・ロイスが初のEV「スペクター」開発で死守したこと

ロールス・ロイス 「SPECTRE(スペクター)」

電気自動車というトピックでは、とかく機能や性能が話題になりやすい。デザインも大切な要素だが、走行距離、安全性、耐久性、環境負荷、価格……それらの違いで他社との差別化が図られがちだ。そんななか、ロールス・ロイスが何よりも重要視したのは「ロールス・ロースらしいか」ということ。数字でも言葉でも表しにくい、この抽象的なゴールを追い求めてきた。

電動化に向けて動き出したのは十数年前だが、そのビジョンの誕生は1900年に遡る。創業者のチャールズ・ロールズによる、「電気自動車はまったく騒音がなくて空気も汚さない。匂いも振動もない。定置式の充電ステーションが整備されれば、途方もなく便利なものになるだろう」という予言だ。SPECTREは、ブランドにとって123年越しの有言実行となる。
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13年前にCEOに就任し、その旅路を歩んできたエトヴェシュCEOは、2011年に発表したエクスペリメンタル・モデルについて、「それはロールス・ロイスが電動化へ向かうことを明示すると同時に、顧客のフィードバックを得るために重要でした」とし、次のように続けた。

「彼ら(顧客たち)は、車内で話ができる静粛性、ふわりと漂うような乗り心地の面でも、電動化はブランドに完璧に合っていると言いました。ただ、『ロールス・ロイスであることが第一で、電気自動車であることは二の次だ』と。その言葉は私の頭の中にねじ込まれていました」
トルステン・ミュラー・エトヴェシュCEO

トルステン・ミュラー・エトヴェシュCEO

デザイン、エンジニアリングほか全社を挙げて開発したSPECTREは、ダイナミックな2ドアクーペだ。全長5475mm、全幅2144mmとフラッグシップの「PHANTOM(ファントム)」とさほど変わらない。23インチのタイヤを備え、かなりの存在感があるが、そのフォルムには優雅さが漂う。

デザイン・ディレクターのアンダース・ウォーミングは、「まずクーペという大枠が決まり、全体のシェイプ、エクステリアデザイン、ミラーやライトなどのパーツ、インテリア、ディテールと細部を詰めていきました」と約4年をかけたデザインプロセスを振り返る。
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そして、細部へのこだわりの象徴として車内の“空気孔”に触れ、「ステンレスなので触るとひんやり冷たい。指で弾くと、時計のミニッツリピーターのようなピーンという繊細な音が鳴り、それは走行中でも聞こえる」と誇らしげに語っていた。
逆開きで1.5mある「コーチドア」は、ブレーキペダルを踏むと自動で閉まる

逆開きで約1.5mあるドアは、ブレーキペダルを踏むと自動で閉まる

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文=鈴木奈央 写真=ロールス・ロイス

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