日本でいち早く「カルチャープレナー」の出現とその重要性に着目し、この企画の特別監修を務めた佐宗邦威。多忙を極めるなか、あえて出立した世界旅で、日本の文化起業家たちの大いなる可能性を見た。
今年6月、僕は世界一周の旅に出た。もう一度海外から日本を見て、これから日本がやるべきことを構想したかったからだ。欧州、アメリカ、南米と回るうちに、僕はコロナ前との大きな違いに気づいた。それは、「日本文化に対する興味関心が大きく高まり、日本に行きたい外国人が増えている」ことだ。
僕がアメリカのシカゴに留学していた2013年当時、アメリカ人から見た日本のイメージといえば、“Sushi”だけだった。しかし今や、すしも含めた“Washoku”は健康的で繊細な高級キュイジーヌとして認知され、“Matcha”スタンドは街のあちこちで見かける。“Sake”は料理のジャンルを問わず多くの飲食店が扱い、日本人のシェフはトップクラスの技術をもつ人として、海外に出れば3倍、またはそれ以上の給料をもらえるようになっている。
“Dashi”専門店がニューヨークにでき、日本にしかない”Umami”という味覚自体の認知も上がってきている。食だけではない。アニメはマニアックな層を超えて、多くの子供たちが知るコンテンツになっているし、昔から南部鉄器をはじめとしたクラフトへの評価は高く、多くの日本食店には工芸品が置かれている。
ニューヨークに長年住むデザイナーはこう言った。「日本の文化は、これから世界でもっと評価されるようになる。伸び代しかないよ」と。正直、久しぶりに海外に出た僕にとってこの温度感は想像を超えていた。確かに、現在多くの外国人観光客が日本を訪れているが、円安がすべての理由ではない。繊細で独特で質の高いものづくりや、“Wabi-Sabi”や“Zen”などの精神性、自然との共生などの思想といった「日本文化」そのものが引力となっているのだ。そう考えると、これからの日本のビジョンが見えてくる。日本は観光大国にとどまらず「文化大国」を目指すべきである。
文化GDPという考え方がある。文化庁が2018年に発表した文化行政調査研究によると、日本のアート、パフォーマンス、コンテンツ、デザイン、クリエイティブなどを足し上げた文化GDPは、14年時点で16兆5000億円、これはGDP比の1.9%に当たるとされている。一方、イギリスの文化GDPは、GDP比の5%にも達する。これを見れば、日本にはかなりの伸びしろがある。日本の数字には、11兆円規模の市場規模をもつ観光や、食産業は含まれていない。日本文化の付加価値を上げ、文化GDP比率を高めていくことで、経済成長にも貢献できるはずだ。