そんな現状に、地方から風穴を空ける企業がある。月額定額制のホームページ制作・運営サービス「ばりよか」を運営する福岡のスタートアップ企業、ラシンだ。
ホームページは一般的に、自社のPRや信頼の担保、ブランディングに有効とされ、国内だけでなく海外にまでアプローチできるというメリットがある。ただ、日本の中小企業ではいまだネットに慣れない人材も多く、必要を感じているのにもかかわらずホームページの開設や更新ができていない現状がある。
少し前の調査にはなるが、2012年の『中小企業白書』(中小企業庁)によると、ホームページを開設している割合は小規模企業で46.3%、中規模企業で80.4%。それ以降のデータは公開されていなが、現在もほとんど何も変わっていないだろう。
更新頻度の少なさは深刻だ。小規模企業では、「更新していない」「数年に1回」「1年に1回」を合わせると、48.9%、中規模企業では40.3%。つまり、中小零細企業では「ホームページは一度つくったら、あとは放置」が半数近いということだ。
これが、日本の企業数の99%以上を占める中小零細企業の現状である。
販路拡大のカギは「金融機関」
「地方の中小企業が秘めた可能性をITのチカラで引き出し、成長へと導く」ことをビジョンに掲げるラシン。メイン事業の「ばりよか」は、月9800円(税別)でサイトの制作と更新を請け負うサービスだ。「ばりよか」とは、博多弁で「とても良い」という意味。地方、そして博多発に、強いこだわりを感じさせる。ユニークなのは、ネットに詳しくない層にアプローチするための営業戦略。ターゲットはネットに接していない層なのだから、流行りのネット広告など効くはずもない。かといって、テレビやラジオで広告を打つだけの資金力もない。
そこで、販路開拓方法として活用しているのが、地元金融機関との協業だ。福岡銀行、熊本銀行などを傘下に擁するふくおかフィナンシャルグループ、西日本シティ銀行、福岡ひびき信用金庫、佐賀銀行と業務提携し、銀行経由でサービスを紹介してもらっているのだ。それだけでなく、西日本新聞社とも同様の提携を行っている。
福岡出身でもあるラシンの原直樹社長は、こうした地域密着型企業との協業効果をこう打ち明ける。
「地域に根差した会社に紹介してもらえることで、一般的な販促手段ではアプローチが難しい企業にサービスを知ってもらえるようになりました。どこも地元で知名度、信用力がある企業なので、商談は最初からスムーズに進むことがほとんどですね」
ラシンの原直樹社長(右)と「ばりよか」担当の武耕太郎COO
こうした地域密着企業との提携“だけ”で、「ばりよか」は開始から3年で600社が利用するまでに成長している。
“ネットに詳しくない層”への配慮は、契約後のサイト運用でも徹底している。「サイトの更新内容をメールで送って欲しい」と言っても決して簡単ではないため、顧客と担当者とのやりとりは基本、LINEで行っている。LINEはこうした層にとって、普段から慣れ親しんでいる数少ないネットツールだからだ。