キュレーターと批評家の役割
AIアートは、キュレーターや批評家たちにも新たな課題を提示する。アルゴリズムが生成したジェネレーティブアートが広まる中で、その作品をどのように評価しアートの文脈に位置づけるかという問題が生じることになる。キュレーターは、AIアートを展示やコレクションに取り込む際に、真正さや制作の意図、文化的関連性といった課題に取り組むことになる。同様に、批評家もアートとテクノロジーの進化に直面している。従来の批評家は作品の背後にある意図や感情、文化的背景についての洞察を提供してきた。しかし、AIアートにおける焦点はアルゴリズムやデータのインプット、AIのトレーニングプロセスへと移行する。この変化は、アートに関する会話をより豊かにし、人間とテクノロジーの相互作用についての議論を招くかもしれない。
美術館のAIアートにおける役割
カルチャーの担い手である美術館も、AIアートを取り巻く議論を形成する上で重要な役割を果たしている。そこで開催される展示会は、訪問者にアートとテクノロジーの交差点に立ち会う機会を提供する。例えば、昨年11月から今年3月にかけニューヨーク近代美術館(MoMA)で披露され、話題となったのが、AIを駆使したダイナミックなメディアアートで知られるレフィーク・アナドール(Refik Anadol)の作品「Unsupervised」だ。この作品は、MoMAの膨大なコレクションから18万点の作品の画像をAIで再構築し、200年におよぶ近代アートの歴史を巨大ディプレイに投影した、躍動感あふれるインスタレーション作品だ。
「レフィーク(アナドール)は、私たちが通常は合理的なシステムを連想するデータを、シュールで非合理的な世界へと広げている。MoMAのデータセットに対する彼の解釈は、モダンアートの歴史を変容させる」と、MoMAキュレーターであるミッシェル・クオはニューヨーク・タイムズの取材に述べている。
アートにおけるAIの探求は、まだ初期段階にある魅惑的なコンセプトだが、アナドールの作品は、このテクノロジーが持つポテンシャルを示している。
美術館はまた、AIアートの楽しみ方を教える責任を負っている。MoMAやロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリーなどの主要な文化機関は、AIアートに対する一般の理解を促進する先駆者としての役割を果たしている。
没入型のインタラクティブな展示やワークショップ、魅力的なパネルディスカッションを通じて、彼らはAIアートに関する議論や学びの場を提供している。これらの取り組みは、AIアートをどう位置づけるかだけでなく、AIが果たす役割を解明し、この革新的なアートのフォーマットに対する深い理解を促進する役割を果たしている。
セフ・チョウ(Zaf Chow)◎2011年香港大学卒業。21年からWeb3企業アニモカブランズでデジタル戦略およびパートナーシップの取締役として勤務。22年にはTEDxのスピーカーに選出され、Web3が社会に与えるインパクトに関する講演で聴衆を魅了した。23年4月にデジタルアートに特化したNFT企業アーティファクト・ラボの最高商務責任者(CCO)に就任。
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