「建設業界ではつくり手の数がここ20年で半減して、今はほとんど高齢者が携わっている。これから十数年もすれば、日本で家を建てられるのは一部の富裕層だけになるかもしれません」
秋吉浩気は芸術家肌の雰囲気をまといつつ、投げられた質問に当意即妙で答えを返す建築家だ。デジタル技術を駆使する建築系スタートアップの起業家として、日常の設計業務以外にも、事業計画を描いて投資家に会う、その間にプロダクトやサービスの開発を進めるという「3足のわらじ」を履きこなす。
大学時代はアナログで建築設計を行い、大学院でプログラミングに触れた。掲げるビジョンは「建築の民主化」。誰もがものづくりに携わる社会を目指し、3D木材加工機の販売事業からスタートした。その後、スタートアップカンファレンスのステージ設計を任された縁で投資家や起業家と知り合いVUILDを創業。森林資源とデジタル技術のかけ合わせで建築界に新風を吹き込む。
まもなく創業から6年。年に1億円規模の調達を続けられるのは、既存のスタートアップが生み出すサービスの儚さに“限界”を感じる投資家の存在があると秋吉は言う。
「コロコロ変わる技術トレンドやサービスと、文化は対極的だと思う。将来の社会インフラとなりうる新たなカルチャーを育むのに、5〜10年というファンドの償却期間に乗せるのは難しい。インターネットが世の中を変えたように、建築の『分散化』や『民主化』が世の中を変える未来に共感する投資家に支えられている」
調達資金の主な用途はプロダクト開発だ。2022年5月にリリースしたのは、個人が住宅をアプリ上で設計し、部品の加工にまで携われる「NESTING(ネスティング)」。現在もバージョンアップを続ける同サービスを世に出したのは、冒頭で秋吉が語ったように、あと十数年で個人が住宅を建てる営みが消え去る可能性があるからだ。
すでに資材やエネルギー、人件費の高騰などでその波は押し寄せているが、そもそも人口減社会で新たな建築をつくる意義はどこにあるのか。
「僕が住む鎌倉は移住者が増え、いつの間に戦前の邸宅がハウスメーカー製の住宅に置き換わっている。技術や資材の結晶である良質なストックは、今後どれだけお金を払っても建てられない。一方で、地場産業との縁が切れた戦後の画一的な住宅を残すべきかは、別の価値観だと思う」。
秋吉は長い断絶を乗り越えて、現代とかつての家づくり文化を接続し直そうと試みる。
「その土地ごとの建築技能や工法は、従来は地域の流通圏に根付くものだった。デジタル技術で小規模な流通ネットワークを開発して、地域の手に製造技術や産業構造を取り戻す。わかりやすいランドマークとして合掌造りの『まれびとの家』をつくったのです」
そんな秋吉にとって、文化とは「存在意義」だ。「そこにある必然性が結晶化したものが『文化』なのだと思う。建築をつくる行為は、自分が死んだ後にも残る風景をつくること。それが次の時代に贈るべき文化なのか、常に自問しています」
あきよし・こうき◎建築家、メタアーキテクト。1988年生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科卒業後、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科エクス・デザイン領域でデジタルファブリケーションを専攻。2017年創業。