「インド政府の工作員」が関与した──。カナダのジャスティン・トルドー首相は18日、議会で行った演説で、ハーディープ・シン・ニジャールの殺害事件をめぐりインド側を非難した。インドで今月開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でナレンドラ・モディ首相と会った際、この問題を提起したが、意見が対立したことも明らかにした。
カナダ国内のシーク教徒コミュニティーのリーダーのひとりだったニジャールは6月18日、西部ブリティッシュコロンビア州バンクーバー郊外のサリーで2人組の男に銃撃されて死亡した。実行犯は捕まっておらず、身元も不明だ。
インド紙タイムズ・オブ・インディアは、ニジャールは「カリスタン・タイガー・フォース」という組織のリーダーで、インド政府からテロリストに指定されていたと伝えている。
カリスタン運動とは
カリスタン運動は、シーク教徒が多いインド北部パンジャブ州やその周辺から分離して、シーク教徒の独立国「カリスタン」(「清浄な地」という意味)を建国することをめざすもの。ブリタニカ百科事典によると、運動の起源は英植民地時代のインドにさかのぼるが、パンジャブ州で広がったのは1980年代のことだ。1982年には、ジャルネイル・シン・ビンドランワレ師率いる分離主義者グループが暴力的な運動を開始。シーク教の総本山にあたるハリマンディル・サーヒブ(通称ゴールデン・テンプル)を占拠し、「並行政府」の事実上の本部にした。インド政府は1984年に軍を投入して制圧し、ビンドランワレを含む多数が死亡した。死者数は公式発表では数百人だが、シーク教徒の団体は数千人にのぼったとしている。
その後も暴力はおさまらず(編集注:制圧後の同年10月には当時のインディラ・ガンディー首相がシーク教徒の護衛に暗殺される事件も起きた)、1990年まで続いた。国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、カリスタン運動の過激派は「ヒンドゥー教徒やシーク教徒の民間人の殺害、政治指導者の暗殺、爆弾の無差別な使用など数多くの人権侵害に関与した」と指摘している。
インド国内では現在、シーク教徒による活発な武装闘争は起きていないが、インド当局は運動の支持者が再興を図っているとして警戒している。