さまざまなシーンで使われる「アウトプット」という言葉。アウトプットとは一度限りのもの。知らず知らずの内にそう思い込んでいるものの、世の中にはアウトプットを重ねることで、体験価値が高まったり、幸せが増幅されることがある。そうした二重のアウトプットによる価値を「ダブルアウトプット」と認識することで、多くのチャンスが見えてくる。
代表事例が、写真における「撮影→形にする」というダブルアウトプットだ。スマートフォンで誰もが気軽に撮影できるようになり、撮影という1回目のアウトプットが普及した。一方で、そこで満足し、写真をプリントしたり、アルバムにするというアウトプットが見逃されるようにもなった。形にすることは面倒だ。紙質を決めたり、サイズを決めたり、額を探したり、ブックにするなら構成も考えないといけない。ただ、その2回目のアウトプットこそ、1回目とは違う価値が生まれてくる。
ある研究では、家族写真を家に飾ることで、子どもの自己肯定感が高まるという実証結果が報告されている。普段家族写真を飾っていない家庭に一定期間子どもの写真を飾り、前後の意識変化を調査すると「自分自身に満足している」という回答結果が得られた。子ども自身の写真が家に飾られることで、親から受け入れられていること、自分が大切な家族の一員であるということが伝わり、自己形成のうえで重要な役割になるのだという。
事例はほかにもある。SNS等で写真を発信し続けていたある写真家がリアルでの写真展を開催した。空間いっぱいに広がる写真の世界と、その場で本人が語る臨場感があいまって、スマホとはまったく違う次元の作品体験となった。展示をきっかけに写真家の注目度はさらに上がり、1回目のアウトプットだけでは到達しなかった価値を物語っている。
さらに私自身にも、ダブルアウトプットの原体験がある。昔、友人のポートレートを撮影しプレゼントをしたことがあった。時間がたち、そんなことも忘れたころにこんなメッセージが。「一緒に撮ってもらったパートナーとの別れが突如やってきた。最初は思い出すことさえ辛かったけど、ふともらった写真を見ると共に過ごした時間を思い出して、次第に別れを受け入れることができた」。撮影したときは思いもしないことが、形にして時を超えることで違う価値が生まれたのだ。写真は撮影した瞬間の魅力もあるが、形にして飾る、贈る、発表するといった2回目のアウトプットで、当初の価値を大きく増幅したり、新しい価値を生み出すのである。